申請者の研究グループは、ショウジョウバエの幼虫をピンセットでつまむだけで感染時と同程度の抗菌ペプチドの産生が行われることを発見し、これを感染非依存の免疫の異常活性化のモデルとして、その仕組みの解明に取り組んできた。その過程で、この現象に関わる有力候補として、自然免疫の受容体Tollの新規内因性リガンドSpz5を特定した。しかし、in vivoでこの分子が感染非依存の免疫の異常活性化に関わるかどうか、及びこの時のSpz5の働き方はわかっていなかった。2018年度は、Spz5-Toll下流の情報伝達分子として、dMyd88を特定した。
Spz5はToll-6のリガンドとして働く時は、Furinと呼ばれるプロテアーゼによる切断を受けた後に作用する。そこで、2019年度は、Tollのリガンドとして働く時も同じかどうか調べた。Furin切断サイトを欠いたSpz5を外来発現させた細胞抽出液を、Drosomycinプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子をつなげたレポーター細胞に添加したところ、Furin切断サイトを欠いても野生型のSpz5と同じく、Drosomycinプロモーターを活性化する作用があることがわかり、Spz5はFurinによる切断なしでTollのリガンドとして働くことが示唆された。
一方、Spz5の遺伝子変異体を作製し、その幼虫をピンセットでつまんでみたが、野生型と比べて抗菌ペプチドの発現レベルは低下しなかった。つまり、予想に反して、Spz5はこのモデル系で見られる感染非依存の免疫の異常活性化には関与しないと考えられた。一方、Spz5単独の変異体では正常であるものの、既知のTollリガンドSpzとの二重欠損体では、成虫まで発生する個体がSpz単独の変異体よりもさらに少ないことがわかり、Spz5はSpzと協調してショウジョウバエの正常な発生を促すことが示唆された。
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