研究課題/領域番号 |
18K15184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榛葉 旭恒 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 研究員 (30812242)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Th17細胞 / ステロイドホルモン / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
CD4Cre-GRcKOマウスの未分化T細胞を用いて分化培養実験を行ったところ、CD4Cre-GRcKOマウスから分化したTh17細胞はコントロールマウスに比べ著減していた。これは、CD4Cre-GRcKOマウスT細胞においては、T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達が障害されており、TCRシグナル下流の細胞内カルシウム流入量が減少していたためであることを発見した。またTh17細胞分化の際にHIF1aは解糖系を活性化し急速なATP産生と細胞分裂を誘導するが、CD4Cre-GRcKOマウスのT細胞においてHIF1aが著減しており、グルコースの細胞内への取り込みが障害されていることを見出した。以上の結果から、GRはTCR刺激およびHIF1aの発現亢進を介して、Th17細胞分化を促進することが明らかになった。 次に、GRが腸管Th17細胞の分化後の維持を促進することを見出しているが、腸管のTh17細胞が活性化するB細胞のIgA産生がCD4Cre-GRcKOマウスおよびIL17Cre-GRcKOマウスにおいて減少傾向があり、腸管環境の維持に影響している可能性が示唆された。実際にCD4Cre-GRcKOマウス糞便中の腸内細菌叢の多様性を網羅的に解析したところ、コントロールマウスに比べて多様性に変化が見られた。さらにCD4Cre-GRcKOマウスおよびIL17Cre-GRcKOマウスの未分化T細胞をRag2KOマウスに移植し大腸炎を誘導したところ、両遺伝子改変マウスの大腸におけるTh17細胞の割合が減少したことから、GRが病原性Th17細胞の発生をも促進することが明らかになった。 本研究から、GRがTCRシグナルおよび遺伝子発現を誘導してTh17細胞の分化を促進すること、また何らかの遺伝子発現を制御してTh17細胞の末梢における維持を促進することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、GRがTCR刺激を強化しTh17細胞を促進すること、腸管常在Th17細胞の維持に寄与すること、T細胞を免疫不全マウスに移入して大腸炎を誘導するモデルにおいてGRがTh17細胞の分化を促進することで病態の進行に寄与することを明らかにすることができた。これは本研究を始めるにあたり立てた仮説である「グルココルチコイドがTh17細胞の分化、維持、機能を促進して大腸炎の病態に寄与する」という考えを大いに支持するものであるため、ほぼ満足できる達成度と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はGRがTh細胞の分化や維持、機能を促進する詳細な機構を調べるために、健常状態におけるTh17細胞、大腸炎時の腸管におけるTh17細胞をサンプルとしてRNAシークエンスを用いた網羅的な遺伝子発現解析を実施することで、Th17細胞におけるGRの標的遺伝子の探索を行う。標的遺伝子が同定された際には、標的遺伝子発現をGRがどのように制御しているかを解析するために、その標的遺伝子近位のGR結合配列の探索を行った上で、クロマチン免疫沈降法を用いてGRの結合を確認する予定である。さらにその標的遺伝子自体がTh17細胞の分化や維持、機能を促進するか確かめるために、標的遺伝子破壊マウスを用いて解析を進める予定である。また、健常時または病態時においてグルココルチコイドを投与した際に、標的遺伝子の発現上昇を介してグルココルチコイドがTh17細胞の機能を促進し、Th17細胞のステロイド抵抗性に寄与するかを確かめる予定である。
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