研究課題/領域番号 |
18K15187
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥村 龍 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00793449)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖転移酵素 / 腸内細菌 / 粘膜バリア |
研究実績の概要 |
腸内細菌によって誘導される糖鎖発現を解析するため、SPFマウスと無菌(GF)マウスの各雄雌のマウスの小腸上部、小腸下部、大腸の上皮細胞を単離し、RNA-seq解析により網羅的にSPFマウスとGFマウスの腸管上皮細胞における遺伝子発現の相違を解析した。全遺伝子の中で発現量がFPKM0.1以上の遺伝子を解析対象とし、その中で計135の糖転移酵素遺伝子(Glycogene)について発現量を解析した。 まず大腸上皮における糖転移酵素の発現をみたところ、SPFマウスとGFマウスで2倍以上の発現変化を認める糖転移酵素は認められず、大腸においては腸内細菌により発現が誘導される糖転移酵素は同定できなかった。 一方で小腸下部においては、SPF/GFで雄、雌の平均が2倍以上の発現上昇を認める糖転移酵素が存在し、これまで腸内細菌によって発現誘導されることが報告されているFut2 (SPF/GF fold change: 20.876)以外にも、B3galt5 (SPF/GF fold change: 39.499)、B3gnt7(SPF/GF fold change: 3.920)、B3gnt5(SPF/GF fold change: 3.129)など、腸内細菌によって誘導される糖転移酵素が計11個同定された。さらにこれらの同定された遺伝子の多くが、小腸に比べ大腸上皮において発現が高いこと(Fut2:8.663倍、B3galt5:23.322倍、B3gnt7:11.378倍(大腸/小腸下部))が明らかとなった。 以上の結果より、大腸では明らかに腸内細菌の存在により発現誘導される糖転移酵素は同定されなかったが、一方で小腸においてはこれまで報告されているFut2以外に計10個の糖転移酵素の発現が腸内細菌によって誘導されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、SPFマウスとGFマウスの小腸および大腸の上皮細胞の遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に解析することで、特に小腸において腸内細菌によって発現が誘導される糖転移酵素が新たに同定された。一方で、計画時に予測していた大腸における腸内細菌による糖転移酵素の発現誘導は認められなかった。しかしながら、粘膜バリア機能に重要とされるFut2も大腸で発現が高いものの、大腸では腸内細菌によって発現が誘導されず、今回新たに同定した糖転移酵素もまたFut2と同様に、小腸では腸内細菌で発現が誘導され、大腸ではさらに高い発現が認められることから粘膜バリアに重要である可能性があると考える。その可能性の根拠の一つとして、今回腸内細菌によって発現誘導されることを新たに見出したB3galt5は腸管上皮の抗菌分子の発現を誘導するインターロイキン(IL)-22により誘導されることからこれまでの既報で明らかとなっている。 以上の結果より、当初の予想とは異なるが、腸内細菌によって発現誘導される新たな糖転移酵素が同定され、今後の研究の発展が期待できることからおおむね順調に研究は進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究により、小腸で腸内細菌によって誘導される糖転移酵素を同定したが、Fut2以外は腸管におけるそれらの機能はわかっていない。特に腸内細菌によって発現が誘導され、大腸に特異的に高発現しているB3galt5はIL-22により誘導されることから粘膜バリア機能に関係していることが考えらえる。生体の腸管におけるそれらの糖転移酵素の機能を明らかにするために、CRISPR/Cas9システムを用いてそれぞれの欠損マウスを作製し、その表現型を解析する。また糖鎖修飾のターゲット分子の一つであるLypd8の、野生型マウス(SPFマウスとGFマウス)または各糖転移酵素の欠損マウスにおける機能変化ならびに糖鎖修飾変化を解析する。また当初の計画通り、潰瘍性大腸炎(UC)患者の大腸上皮の糖転移酵素の発現を解析し、大腸癌患者の正常粘膜部分と比較した場合に、UC群で発現が著しく低下する遺伝子を選別し、腸管炎症との関連が示唆される糖鎖生合成関連分子を同定する。また両群の大腸上皮細胞表面に発現する糖鎖パターンの違いをレクチンアレイや質量分析により解析する。
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