令和3年度はB3galt5欠損マウス、St6galnac6欠損マウス、B3gnt7欠損マウスといった糖転移酵素欠損マウスがそれぞれ実験的大腸炎に対して高感受性であることについて、そのメカニズムの解析を行った。 B3galt5、St6galnac6欠損マウスでは大腸ムチンのDisialyl-lewis a付加に関わる糖転移酵素であるが、いずれのノックアウトマウスにおいても、大腸ムチンのDisialyl lewis a構造が欠落し、大腸粘膜を覆う粘液層の非薄化が認められた。また大腸粘膜固有層における免疫細胞のフローサイトメトリー解析により、St6galnac6ノックアウトマウスにおいてはCD4陽性Tリンパ球、Bリンパ球、好中球といった免疫細胞の増多を認め、組織学的解析では軽度の大腸炎像を認めた。また腸管上皮細胞のRNA-seq解析においては、両遺伝子の欠損マウスの腸管上皮細胞において細菌成分の一つであるリポポリサッカライド誘導性の遺伝子群の発現が亢進しており、これらの結果から両遺伝子の欠損マウスでは粘液層が脆弱化し、それにより腸内細菌が侵入し、腸管炎症に対する感受性が高くなっていることが示唆された。 一方で、B3gnt7欠損マウスでは大腸上皮細胞に発現する硫酸化ポリラクトサミンの伸長が起こらなくなっているが、腸内細菌叢を解析すると、B3gnt7欠損マウスでは腸内細菌の多様性が低下し、野生型マウスで酪酸産生菌であるFaecalibaculum rodentiumの著しい減少を認めた。またFaecalibaculum rodentiumは酪酸産生菌であるため、糞便中の有機酸解析を行ったところ、B3gnt7欠損マウスでは糞便中の酪酸濃度の著しい低下が認められた。これらの結果から大腸で発現する硫酸化ラクトサミンは腸内酪酸産生菌を増加させ、腸管恒常性維持に貢献していることが示唆された。
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