研究課題/領域番号 |
18K15188
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河本 新平 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (40612081)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 老化細胞 / p16INK4a / 腸内フローラ / パイエル板 / 免疫グロブリンA |
研究実績の概要 |
我々の腸管内腔には、莫大な数と種類の細菌によって構成される腸内フローラが形成されており、腸内フローラのバランスの乱れが様々な疾患の病態や発症に影響を及ぼしていることが知られている。以前より、加齢に伴って腸内フローラのバランスに乱れが生じることが知られていたものの、その発生機序に関しては明らかとなっていない。一方で、加齢に伴って、老化細胞(p16INK4a陽性細胞)が組織内に蓄積することで組織機能の低下を招くことが知られている。特に、我々の観察から、腸内フローラの制御に重要な役割を果たす免疫グロブリンA (IgA) の産生部位である小腸パイエル板において顕著な老化細胞の蓄積が明らかとなった。本研究において、パイエル板における老化細胞の蓄積とそれに伴うIgAの変化に着目し、腸内フローラの加齢性変化の発生機序を明らかにすることを目的とした。 まず、パイエル板においてp16INK4を発現している細胞を同定するために、若齢マウスおよび老齢マウスのパイエル板より、様々な免疫細胞を単離し、p16INK4aの発現を確認した。その結果、一部のT細胞およびB細胞が発現していることが示唆された。この結果を確認するため、T細胞およびB細胞を含む免疫細胞のみが、p16INK4a発現のもとでルシフェラーゼによる発光を示すことのできるマウスを移植実験により作成したところ、T細胞およびB細胞のみが増殖することのできる環境において、特に強いp16INK4aの発現に由来する発光が検出された。また、興味深いことに、これらの移植実験によりT細胞およびB細胞が置かれた環境において発光強度を変化、すなわちp16INK4a発現を変化させていることが明らかとなった。今後、T細胞もしくはB細胞のみでp16INK4aを強制発現させるマウスを作成し、強制発現後のIgAの機能および腸内細菌叢の変化を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p16INK4a発現細胞のp16INK4aの発現量が低いため、qPCRがなかなか安定化せず、当初はp16INK4a発現細胞の同定が困難であった。しかし、技術的な改善により、p16INK4aのqPCRが安定化され、発現細胞の絞り込みを行うことができた。また、TおよびB細胞を含む免疫細胞のみが、p16INK4a発現に依存したルシフェラーゼ発光を示すことができる移植マウスを作成し、高感度なルシフェラーゼの発光によるp16INK4a発現の確認を行える系を樹立したことで、p16INK4a発現細胞におけるp16INK4a発現の変化を高感度に確認できるようになったことが大きい。
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今後の研究の推進方策 |
p16INK4a発現細胞の同定がほぼ完了したので、今後は、その発現細胞におけるp16INK4aの機能的意義を明らかにすることを目的とする。 実際に、p16INK4aをタモキシフェンにより強制発現させることのできるマウス(p16-Tgマウス)から、目的の免疫細胞を単離し、免疫不全マウスに移植する。この移植マウスにタモキシフェンを投与することで、目的の免疫細胞においてのみp16INK4aを強制発現させ、強制発現後のIgAの機能および腸内フローラの変化を確認することによって、p16INK4a発現による腸管免疫系の変化と腸内フローラに与える影響を明らかにする。 逆に、p16INK4a発現細胞をガンシクロビルにより除去できるマウス(p16-3MRマウス)の老齢マウスにガンシクロビルを投与する実験を計画している。p16INK4a発現細胞を除去することで、IgA機能や腸内フローラに与える影響、すなわち、これらの機能が若齢マウスにおいて見られるものに近づくのか、若返るのかに関して検討する予定である。さらに、老化細胞を除去できる薬剤を老齢マウスに投与した場合における、IgA機能および腸内フローラに与える影響も検討する予定である。 以上の結果から、加齢に伴う腸内フローラの変化が、p16INK4a発現上昇によるIgA機能変化によるものなのかを明らかにしていきたい。
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