研究課題/領域番号 |
18K15189
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 宏樹 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (50747920)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | mRNA安定性 / 炎症 / IL17 / リン酸化 / 細胞内局在 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
炎症関連遺伝子のmRNA安定化にかかわるRNA分解酵素Regnase-1は、Toll様受容体やIL-1受容体の活性化によりリン酸化を受けて分解することによってmRNA分解活性が一過的に低下し、それに伴いRegnase-1により発現が抑制されていた炎症関連遺伝子が誘導される。研究代表者は、IL-17受容体の活性化によりRegnase-1がリン酸化を受け、そのリン酸化に伴ってRegnase-1の細胞内局在が変化して、Regnase-1の標的となるmRNAの安定性が向上することを明らかにした。IL-17において見いだされたのリン酸化と細胞内局在の変化はToll様受容体やIL-1受容体の活性化の際にも見られ、Regnase-1のRNA分解活性の調節は分解よりもむしろリン酸化が担っていることが示唆された。さらに、細胞刺激時のRegnase-1による炎症反応制御に対する寄与は、血球系細胞よりもむしろ非血球系細胞において顕著であり、mRNA分解を通じた炎症反応制御プロセスにおいて、Regnase-1のリン酸化が大きな影響を与えていることを明らかにした。Regnase-1のリン酸化を受けない点変異を施したマウスは、サイトカイン刺激による炎症性サイトカインの産生を顕著に抑制し、炎症関連疾患モデルの一つである自己免疫性脳脊髄炎モデルの症状を強く抑制した。従って、細胞刺激時におけるRegnase-1のリン酸化は、炎症応答を惹起する際の重要なプロセスの一つであり、それを阻害することは炎症性疾患の治療のための非常に有力な治療のストラテジーとなると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、Regnase-1のリン酸化に関与している新規キナーゼの同定を試み、炎症性サイトカインIL-17による細胞刺激におけるRegnase-1リン酸化に関わっているキナーゼとして、TBK1/IKKiを同定した。これらのキナーゼによるリン酸化パターンは、TLR/IL-1Rの各受容体シグナルにおけるRegnase-1のIRAK1/IRAK2キナーゼによるリン酸化のパターンと類似していた。TBK1/IKKiのRegnase-1のリン酸化の影響を調べた結果、これらのリン酸化はRegnase-1の細胞内局在を変化させることを見出した。未刺激時において、Regnase-1は多量体を形成して小胞体膜上に局在しているが、IL-17刺激が加わると、リン酸化Regnase-1は多量体から解離して細胞質内に移行する。このRegnase-1のリン酸化に伴うオルガネラ局在の変化がRegnase-1の標的mRNAの安定性に影響していることを確かめるために、IL-17刺激によるリン酸化を受けないRegnase-1変異マウスとそのマウス由来の細胞を作製した。このマウス由来の細胞はIL-17刺激に伴うRegnase-1の細胞内局在の変化を抑制し、IL-6等の炎症関連遺伝子の発現を著しく抑制した。炎症性サイトカインIL-17は多くの炎症関連遺伝子のmRNAの安定化をもたらすことが以前から知られており、Regnaese-1のリン酸化と細胞内局在の変化がこれらのmRNA安定性と相関していることが強く示唆された。従って、我々の提示したRegnase-1のIL-17によるリン酸化に伴う標的mRNAの安定化のメカニズムは、この炎症性サイトカインの持つ特徴的な効果を非常によく説明するモデルであり、これまで不明な点の多かったIL-17と炎症の関連を解き明かす手掛かりになることが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、Regnase-1のIL-17等によるリン酸化と、IL-17の関与する慢性炎症関連疾患との関連を解き明かすことを目標としている。研究代表者は30年度中にIL-17によるリン酸化を受けないRegnase-1変異マウスを取得した。この変異マウスと野生型を用いて慢性炎症疾患モデルを適用し、それらの症状の比較を通じてRegnase-1のIL-17によるリン酸化の疾患症状の増悪に与える影響を評価する。また、この変異マウスはTLRやIL1RシグナルにおけるRegnase-1のリン酸化を阻害することから、多様な炎症を惹起するサイトカインや物質に対しても抵抗性を示す可能性がある。次年度では、これまで発見されたものと異なる新規のRegnase-1リン酸化経路の可能性についても探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度を繰り越して現在発注している物品があるため。この物品は次年度に納入されその際の代金の支払いに利用される予定である。
|