悪性腫瘍に対する新たな薬剤療法として、分子標的薬を使用したがん免疫療法が注目を集めているが、高額な薬剤費による医療費の圧迫や耐性がんの出現が問題となっており、別なアプローチが求められている。 本研究では、従来の抗体医薬品を用いたがん免疫療法に代わる新たな方法を模索するため、低分子化合物によるエピジェネティクス制御に着目して研究を行った。 H30年度に制御性T細胞(Treg)の分化を抑制するHDAC阻害薬の絞り込みをおこない、本年度は最も効果のあった薬剤を腫瘍移植マウスに投与し、腫瘍退縮効果を示すか確認した。B16F10メラノーマ細胞を移植したマウスに対して、HDAC阻害薬を投与したところ、腫瘍の退縮効果が認められた。培養細胞単独でもHDAC阻害薬に対して感受性を示すことから、この効果はHDAC阻害薬ががん細胞の増殖を抑制する効果を反映しており、マウスの免疫細胞への影響を評価することは難しい。そこで、メラノーマ細胞側のHDACアイソザイムをゲノム編集により欠損させ、マウスに移植することで、HDAC阻害薬の腫瘍免疫に対する影響を評価することとした。今回樹立したHDAC欠損細胞は、in vitroではHDAC阻害薬による細胞増殖抑制効果が認められなかった一方、マウスに移植した際にはHDAC阻害剤の投与によりTregの抑制と腫瘍の退縮が認められた。以上のことより、HDAC阻害薬は腫瘍に対して直接的に作用するのみでなくがん免疫の増強にはたらくものがある可能性が示された。今後はHDAC阻害薬がTregを抑制するメカニズムについて検討を進めていく。
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