悪性黒色腫の病態において腫瘍内に浸潤している免疫細胞に対する免疫抑制が重要であることが分かってきた。本研究では悪性黒色腫に特異的なメラニン合成能と抗腫瘍免疫抑制能の関連を調べた。まずヒト悪性黒色腫検体および色素性母斑のRNAseqデータを用いて樹状図によるクラスター分析を実施したところ、メラニン合成能と受容体型転写因子であるAryl hydrocarbon receptor (AhR)の標的遺伝子群の間に強い相関が認められた。次に、悪性黒色腫の臨床検体を用いて免疫組織化学染色を実施したところ、メラニン合成酵素であるTyrosinaseとAhRの活性化の指標であるCYP1A1の発現に相関を認めた。加えて、両者が高発現している部位の周囲に、PD-1を発現しているCD8陽性T細胞の浸潤を認めた。これらの結果は、メラニン合成系と関連した分泌性のAhR活性化因子の存在と、同因子によるAhR活性化を介した抗腫瘍免疫の抑制機序の存在を示唆している。そこで、種々のメラニン代謝産物をヒトT細胞株に添加し、AhR活性化能をCYP1A1の発現を指標に評価したところ、一部の中間代謝物でCYP1A1の発現を認めた。次に、in vivoでのT細胞におけるAhR活性化の影響を調べるため、T細胞特異的にAhRをノックダウンしたマウスと対照となるマウスに悪性黒色腫細胞株を移植し腫瘍内の免疫細胞を検討したところ、AhRの欠失により腫瘍内のCD8陽性T細胞が減少する傾向を認めた。これらの結果は悪性黒色腫におけるメラニン合成系が、周囲にCD8陽性T細胞を遊走させるとともにそれらの抗腫瘍免疫を抑制している可能性を示唆している。更なる検証のため、現在メラニン代謝酵素遺伝子をノックダウンした細胞株を樹立し、マウスへの移植実験を行っている。
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