研究課題/領域番号 |
18K15208
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坪田 庄真 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (10801657)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経芽腫 / MYCN / PRC2 / EZH2 |
研究実績の概要 |
神経芽腫を含む小児がんではゲノム異常は少なく、正常発生の分化過程(≒エピゲノム)に異常が起きることでがん化すると考えられている。先行研究により、がん遺伝子MYCNによる神経芽腫のがん化にエピゲノム制御複合体のPRC2が大きく寄与することを報告した。本研究ではエピゲノム異常が引き起こす神経芽腫の発生機構を解明に取り組んでいる。具体的に、MYCNとEZH2(PRC2の責任分子)の物理的な結合が神経芽腫の発生に必須であるという仮説を検証した。新しく確立したスフェア培養法で神経芽腫の発生を検証し、N-MycとEzh2の局在やエピゲノム修飾、遺伝子発現を網羅的に解析している。これにより、MYCN-PRC2による神経芽腫の発生を多角的に捉え、エピゲノム異常によるがん化機構を解明し、新たな治療法開発の基盤を創る。 今年度は、まず始めにMYCNとEZH2の結合について先行研究の再現性を調べた。予想外なことに共免疫沈降実験により、EZH2との結合領域とされていたMB3ドメインを欠損したMYCNもEZH2と結合しうるという結果が明らかになった。このため、MYCNのどの領域にEZH2が結合するかを再度調べ直す必要が出てきた。また、MYCNとEZH2が結合するゲノム領域を同定するためにクロマチン免疫沈降ハイスループットシーケンスを行ったが、残念ながら結合のピークがはっきり見られず解析出来る状態のデータを得ることが出来なかった。これについては再度実験を繰り返す必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
神経芽腫におけるPRC2の役割とターゲット遺伝子の発現抑制機構はほとんど分かっていないが、MYCNとPRC2の責任分子であるEZH2が物理的に結合するこを報告した。また、EZH2がN-MycのドメインMyc box Ⅲ (MBⅢ) を介して結合するという報告がある。このMYCNとの結合を手がかりにして、神経芽腫へのEZH2(を含むPRC2)の寄与とその分子機構を明らかにするため、本研究課題では以下の3つの実験を遂行している。 (実験1)MYCNとEzh2の結合がMYCNによる神経芽腫の発生に必須かどうか。MYCN、EZH2との結合領域を欠損したMYCN(ΔMBⅢ)、及びEZH2を、未分化な神経芽細胞もしくは分化細胞(交感神経細胞や副腎髄質細胞)に導入し、主にin vitroでのスフェア形成能やin vivoでの皮下腫瘍形成能を指標として形質転換能の比較を行う。本実験について、まず初めに先行研究の再現性を調べたが、予想外なことにEZH2との結合領域とされていたMB3ドメインを欠損したMYCNもEZH2と結合しうるという結果が共免疫沈降実験により明らかになった。そのため、MYCNの真のEZH2結合領域を改めて調べなおすことにした。 (実験2)MYCNとEzh2の複合体によって発現制御される遺伝子群の網羅的な同定。本実験について、神経芽腫細胞株を対象にクロマチン免疫沈降シーケンスを行ったが、残念ながら結合のピークがはっきり見られなかった。再度実験を繰り返す必要がある。 (実験3)MYCNとEzh2の複合体構造解析。上記2つの実験によってN-MycとEzh2の結合が神経芽腫の発生や悪性化に必須であることが明らになった後に、構造解析による詳細な機構解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の実験結果から、主に再現性を確かめる実験を計画している。当初の予定とは異なって研究の進捗が遅れているが、MYCNとEZH2の結合がMB3を介して結合している事実を証明するまでは、先の研究が出来ない状況であるため、最優先して今後は調べていく。 (実験1)については、EZH2との結合領域とされているMB3領域について再度詳細にMYCNとの結合について再実験を行い、真の結合領域を詳細に調べる。具体的に、MYCNの各種フラグメントを大腸菌で発現させ、in vitroでのEZH2との結合を詳細に調べる。 (実験2)については、クロマチン免疫沈降の実験手技や使用した抗体などに問題があったと思われるため、実験プロトコルを改めて見直し再実験を行う予定である。これまで報告されている幾つかの抗体を用いながらMYCNとEZH2のゲノム上での結合領域を明らかにしたい。
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