研究実績の概要 |
リボソーム生合成の異常を引き金に、核小体からRPL11などのリボソーム蛋白質が核質に放出され、MDM2の機能を抑制、p53蛋白質を安定化し、細胞増殖を抑制する、核小体ストレス経路が明らかになり注目されている。一方で、リボソーム蛋白質遺伝子の異常によるリボソーム病の患者群ではがんのリスクが顕著に上昇すること、がん細胞においてリボソーム蛋白質遺伝子の変異および片アレル欠失が多く見つかることからは、核小体ストレスが、異常な細胞増殖、がん化を亢進する可能性を示唆しているが、その背景となる分子機構はわかっていない。本研究ではリボソーマルRNAの転写阻害により、がんの発症や進展に促進的に作動する転写共役因子YAP1/TAZの活性が上昇することを見出したため、これが、核小体ストレスのがん促進的な側面を説明する可能性を検討している。 これまで、RNAポリメラーゼI阻害剤アクチノマイシンDによるYAP1/TAZ依存的な遺伝子転写活性の上昇が再現性良く検出されなかったため、検討を行った結果、細胞密度の高い、細胞増殖の接触阻害の状態にある細胞に対してアクチノマイシンDを添加し、リボソーマルRNAの転写を阻害することで、YAP1/TAZ活性の変化を安定的に確認できることがわかった。この条件においてYAP依存的に転写される標的遺伝子CTGF, CYR61, LATS2のmRNA量が薬剤処理で増加することが確認された。また、YAP蛋白質の核内への集積が認められたことから、細胞増殖の接触阻害の際にYAP1/TAZ蛋白質に対して抑制的に働くHippo経路がアクチノマイシンD処理により阻害されていると考えられる。
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