前年度までの研究において、臨床検体を用いたPRRX1の発現量と患者の予後との関連性、そしてヒト骨肉腫細胞株におけるPRRX1の発現量と増殖性ならびに薬剤感受性との関連性を解明することができ、PRRX1がヒト骨肉腫を治療する上で有望な治療標的分子になることが明らかとなった。しかし、PRRX1がどのように骨肉腫の悪性化に寄与しているかに関しては、解析途中であった。そこで本年度は骨肉腫細胞143Bにおいて、PRRX1をノックダウンさせた後の表現型をin vitroとin vivoの解析を行うことで、PRRX1を介した骨肉腫の悪性化機構の解明を実施した。浸潤能と遊走能への影響をBoydenチャンバーを用いて解析した結果、PRRX1ノックダウンによってそれらが有意に減少することが判明した。また、RNAseqのデータを用いたConnectivity Map analysisによる比較解析を行った結果、PRRX1ノックダウンによってRNA trasncriptomeがforskoklin暴露サンプルのパターンと類似するようになることが判明した。さらに、143Bをforskolin処理すると細胞増殖ならびに遊走能の低下が誘導された。次に、PRRX1をノックダウンさせた143B細胞をNOD-SCIDマウスの皮下に移植した結果、腫瘍サイズの有意な減少が認められ、さらに形成された腫瘍を用いて組織学的な解析を行った結果、PRRX1ノックダウンによってTUNEL陽性細胞数に変化は認められなかったが、KI67陽性細胞の数が有意に減少することが判明した。次に、転移能への影響を解析するために、肺組織を採取し転移巣の数を比較した結果、PRRX1ノックダウンによって転移巣の数が有意に減少することが判明した。以上の結果から、PRRX1はPKAシグナルの活性化を介して、骨肉腫細胞の悪性化を誘導している可能性が考えられた。
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