研究課題
本研究室では、慢性胃炎および胃がんに関連する長鎖non-coding RNA (lncRNA)としてTM4SF1AS1を同定してきた。胃がんにおけるTM4SF1AS1の作用機序を明らかにする上で、その相互作用因子の同定が必須となる。そこでRNAをターゲットにしたハイブリダイゼーションキャプチャー法の一種であるChIRP (Chromatin Isolation by RNA Purification)法に着目し、TM4SF1AS1の内在性相互作用因子(タンパク質、DNA、RNA)を網羅的に同定することが可能な本法の確立を試みた。これまで、TM4SF1AS1安定発現胃がん細胞株を対象にChIRP法を行ったところ、設計したビオチンラベルタイリングプローブにより細胞からTM4SF1AS1が回収できることをqRT-PCRにより確認した。そこでTM4SF1AS1の結合タンパク質を網羅的に同定すべく、ChIRP法で回収したTM4SF1AS1からタンパク質を抽出し、Q-Exactive orbitrap質量分析計によるChIRP-MSを行った。解析の結果、143個のタンパク質の候補を得た。さらなる候補の絞り込みのために、現在TM4SF1AS1の発現の高い胃がん細胞株を用いて、ChIRP-MSによる内在性の結合タンパク質の同定を進めている。一方で臨床胃がんにおけるTM4SF1AS1の重要性を明らかにするために、これまで新学術領域研究コホート生体試料支援プラットフォームに胃がん臨床検体の生体試料支援を申請してきた。107症例の胃がん臨床検体の提供支援が決定し、検体試料を手に入れることができた。そのtotal RNAを抽出しqRT-PCRを行ったところ、一次解析においては健常人に対し胃がん患者でTM4SF1AS1の発現が亢進していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
臨床胃がん検体においてTM4SF1AS1の発現が亢進していることが明らかとなった。臨床情報を用いて胃がんステージや予後との関連を解析し、臨床病理学的意義について検証を進めている。ChIRP-MSの解析で同定した143個のタンパク質の中には、以前RNA pull-down法で同定した結合タンパクも含まれていた。従って今回の結果はこれまでの成果との整合性がみられており、RNA pull-down法では検出できなかった結合タンパク質を含め、TM4SF1AS1が関わるlncRNA-タンパク質複合体の構成因子を網羅的に同定できた可能性が高い。またGene Ontology解析によりRNA結合タンパク質が有意に高い割合で占められていたため慎重に検証作業を重ねる。細胞株を変えてChIRP-MSを行っているのと同時に、一部のタンパク質についてはTM4SF1AS1との相互作用の評価をRIP (RNA immunoprecipitation) アッセイで行い始めている。よって当初予定通りに進行しているものと考える。
TM4SF1AS1安定発現胃がん細胞と高発現の胃がん細胞株によるChIRP-MSの結果から、結合タンパク質の候補を絞り込む。絞り込んだ中から複数のタンパク質とTM4SF1AS1との相互作用について、RIPアッセイにより再評価する。ここでTM4SF1AS1と直接結合することが確認できたものについては、さらにTM4SF1AS1のがん遺伝子的機能との関連性を検証する。その方法としては、発現ベクターによる胃がん細胞株への過剰発現あるいはsiRNAまたはshRNAベクターによるノックダウン実験を行い、細胞増殖能や遊走浸潤能への影響をin vitroで解析し検証する。一方ではTM4SF1AS1のRNA FISH (RNA Fluorescence in situ hybridization)を確立する。結合タンパク質の蛍光免疫染色と組み合わせ、細胞内における局在と相互作用との関連の検証を試みる。
ChIRP-MSにおいてQ-Exactive orbitrap質量分析計に供試するためのアッセイ系の最適化に注力したため、その他の実験に必要な試薬品等の購入を控えたことから、次年度使用額が発生した。使用計画として、RIPアッセイによるTM4SF1AS1と結合タンパク質の相互作用の評価に必要な抗体を多数購入する予定である。またin vitro機能解析に必要な細胞培養関連の試薬や培地類、遺伝子機能解析や遺伝子発現解析に必要な試薬類またはキットの購入に充てる予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Haematologica.
巻: 104 ページ: 155-165.
10.3324/haematol.2018.191262.
Dig Dis Sci.
巻: 63 ページ: 1920-1928
10.1007/s10620-018-5016-5.
Oncotarget
巻: 9 ページ: 24457-24469
10.18632/oncotarget.25326.
Cell Death Dis.
巻: 9 ページ: 826
10.1038/s41419-018-0893-2.
Cancer Lett.
巻: 10 ページ: 91-100
10.1016/j.canlet.2018.07.019.
J Gastroenterol.
巻: 53 ページ: 1241-1252.
10.1007/s00535-018-1481-z.