研究課題
慢性胃炎および胃がん関連長鎖non-coding RNA (lncRNA) として同定したTM4SF1AS1の発がんにおける作用機序を明らかにするために、(1) TM4SF1AS1の相互作用因子の網羅的同定、(2) 細胞周期およびアポトーシスとの関連を検証した。(1)のTM4SF1AS1の相互作用因子については、143個のタンパク質を候補として同定し、さらにTM4SF1AS1と直接相互作用する5つのRNA結合タンパク質(RBP)を同定した。その中にはがん遺伝子やアポトーシス制御に関連するタンパク質が含まれていた。同定した結合タンパク質の細胞内局在を蛍光免疫染色により調べたところ、細胞質内に見られた顆粒状の構造体に局在することが明らかとなった。さらにTM4SF1AS1の過剰発現により顆粒状構造の形成が促進されることを見いだした。(2)の細胞周期およびアポトーシスとの関連についての検証では、まずshRNAによるTM4SF1AS1の安定ノックダウン胃がん細胞株の樹立を行った。樹立したTet-onシステムによる2種のshRNA安定ノックダウン細胞株を使用して、マウスゼノグラフトモデルでのTM4SF1AS1ノックダウンによる腫瘍形成能への影響を評価した。両細胞株においてドキシサイクリン処理後のshRNA発現誘導により腫瘍組織のTM4SF1AS1が発現抑制され、それに伴い腫瘍形成が有意に抑制されることが明らかとなった。またFACS解析では、TM4SF1AS1のノックダウンにより観察されていた細胞増殖抑制がアポトーシスによるものであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
同定したTM4SF1AS1の多数の相互作用因子の中から、がん遺伝子やアポトーシス関連因子を含め直接的な相互作用を示す結合タンパク質を複数同定した。さらにTM4SF1AS1の作用機序として、細胞質内の顆粒形成に関与すること、そしてアポトーシスの抑制に関与することが示唆された。以上より、慢性炎症および胃がんに関連するlncRNA TM4SF1AS1の発がんにおける機序の一端について示唆を得ることができた。
TM4SF1AS1がアポトーシスの制御に関与する可能性が示唆されたことから、TM4SF1AS1による顆粒形成とアポトーシス抑制制御との関連について検証する。研究計画の後半では予想外な成果が得られたことから、準備を進めていた投稿論文の完成度を高めるために、全ての検証を事業期間内に完遂することは困難と考えた。そのため本補助事業期間の延長を申請し、承認されるに至った。
TM4SF1AS1とRNA結合タンパク質との相互作用の検証に必要な抗体の購入数が予想していたよりも少なく済み、購入額を大きく抑えることができた。また事業後半はそれら抗体を用いた蛍光免疫染色実験に集中して行っていたため、その他の実験試薬等の購入が控えられた。そのため、次年度使用額が生じることとなった。使用計画としては、さらなる検証実験と現在進めている論文投稿の際の追加実験等の試薬消耗品に充てる。また投稿に必要な諸経費に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Clin Epigenetics.
巻: 11 ページ: 70
doi: 10.1186/s13148-019-0668-3.