FAM64A は転写抑制因子TSHZ2による抑制がはずれて、ある種の乳癌で過剰発現しているタンパク質のひとつである。本研究の目的はFAM64A 蛋白の細胞内での役割を解析する事と、FAM64A 陽性乳癌の臨床的特徴を解析する事で、乳癌の細分類や利用可能なマーカー、新規分子標的薬を提示する事である。現在までに約200の手術症例に対して免疫染色を行い、FAM64A陽性例の臨床データを収集した。また,ヒト乳がん細胞株を用いた分子生物学的実験により乳がん細胞内でのFAM64Aの役割の研究を進めている。2016年1月から2018年6月までの、浸潤性乳管癌手術検体197例に対し、FAM64A で免疫染色を行い、その臨床病理学的特徴を検討において、年齢、サブタイプ、組織学的グレード、ki-67index、リンパ節転移、腫瘍径、ステージ等との相関を解析したところ、FAM64Aは特にTNBCで多く発現し、陰性群に比べると組織学的グレートとki67-indexが高い傾向にあった。ヒト乳癌細胞株を用いた分子生物学的実験において、FAM64Aにはalternative splicingにより2つのvariantが存在し、遺伝子を用いた乳癌分類であるintrinsicsubtypeにより発現のパターンが異なることが示された。FAM64Aの細胞内局在に関しても、核内へ移行させる機構をもつ遺伝子が含まれているエクソンがskip されることによりsubtypeによる違いが生じるものと考えられた。また、siRNA処理によりFAM64Aノックアウトすると、その細胞数が減少すること、FAM64Aが細胞周期のG2期に比較的特異的に発現していること、LC/MSを用いた解析よりFAM64Aは、複製機構安定化や抗がん剤耐性にかかわる核蛋白SMARCA5・BAZ1B複合体と結合することを見出した。
|