研究課題
悪性中皮腫はアスベスト被曝によって発症する中皮細胞由来のがん細胞である。近年、大規模なゲノム解析によって、主要な遺伝子の異常が同定されたが、細胞がん化の分子機構やがんの組織型を規定する分子基盤についてはいまだ不明な点が多い。悪性中皮腫は既存の分子標的薬に抵抗性を示すことなどから、予後が極めて悪く、発症メカニズムに基づく新規治療標的薬の開発が必要とされている。本研究では、応募者所属研究室で樹立された不死化正常中皮細胞株 (HOMC) をモデル細胞株に用い、ゲノム編集技術を利用した網羅的遺伝子ノックアウトスクリーニング系を用いて、悪性中皮腫の発症や腫瘍の悪性化に関与すると考えられるアポトーシス抵抗性や上皮間葉転換を引き起こす分子基盤を明らかにすることを目的とした。まずHOMC株が浮遊条件で培養すると細胞死を起こす一方で、HOMC株に転写因子YAPの活性型変異体を発現させた「がん化モデル細胞」はアノイキスに対して抵抗性を示すことを明らかにした。アノイキスは細胞外マトリックスへの接着を失った細胞におこるアポトーシスであり、アノイキス抵抗性は、細胞ががん化に伴い獲得する悪性形質の一つである。このアノイキス抵抗性に関与する遺伝子の探索を目的として、HOMC株にCRISPR/Cas9システムを用いて網羅的遺伝子ノックアウトを導入して、浮遊培養を行い、足場非依存的増殖能を獲得した細胞をスクリーニングした。2020年度はスクリーニングで得られた細胞のゲノムDNAに挿入されているsgRNA配列の解析を行い、悪性中皮腫において遺伝子異常が頻繁に見られるNF2遺伝子の他、今までに悪性中皮腫との関連が報告されていない複数の遺伝子の同定に成功した。今後はこうした遺伝子の機能解析を通して、悪性中皮腫の発症メカニズムの研究が進展することが期待される。
すべて 2020
すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)