研究課題/領域番号 |
18K15232
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石原 誠一郎 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (10719933)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん / 転移 / 腫瘍微小環境 / メカノバイオロジー / 組織の硬さ / 血管内皮細胞 / コラーゲンゲル / 転移の共通性 |
研究実績の概要 |
がんによる死因の90%ほどは転移が原因であるが、転移を止めることのできる有効な治療法はいまだ確立されていない。本研究では「転移先の共通性」をもたらす原因について、「組織の硬さ」に着目して解明することを目的としている。そして転移をターゲットとしたがん治療法を提案する。 2018年度はIn vitroでの実験系(細胞培養系)の開発に着手した。血管内皮細胞であるHUVECを硬さの異なる基質上(硬い基質としてコラーゲンコートしたプラスチックまたはガラス、軟らかい基質としてコラーゲンゲル)で培養し、血管内皮細胞のシートを作ることに成功した。さらに、細胞毒性のきわめて低い架橋剤であるゲニピンでコラーゲンゲルを処理することにより、より生体内に近い成分・硬さの基質を作成することに成功した。加えてこれらの基質上でもHUVECのシートを作ることができた。このように硬さの異なる組織における血管シートをIn vitroの系で再現することに成功した。 次に、硬さの異なる組織中の血管においてがん細胞の転移が異なるかどうかを調べた。上記の実験系を用いて硬さの異なる基質上の血管シートを作成し、その上に蛍光標識した肺がん細胞株を播種してがん細胞が血管シートを通り抜けるかどうかを観察した。その結果、軟らかい基質上の血管シートに比べて硬い基質上の血管シートの方ががん細胞の侵入が多くみられることが分かった。 上記の通り、血管シートの基質の硬さに依存して、がん細胞の転移が変わる可能性がin vitroの実験系により示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではIn vitroとIn vivoの実験を進める予定である。当研究室ではすでにIn vitroの実験系(細胞培養系)についてノウハウが蓄積されていたため、まずはIn vitroの実験系の確立を目指した。今年度は硬さの異なる基質上で血管内皮細胞を培養し、血管シートを模倣することに成功した。さらに、細胞毒性のきわめて低い架橋剤であるゲニピンでコラーゲンゲルを処理することにより、より生体内に近い成分・硬さの基質を作成することにも成功した。加えてこの基質上でも血管シートを作ることができた。 これらの実験系を用いて血管シートを作らせたのちに、がん細胞を播種してがん細胞が血管シートに侵入するかどうかを観察した。その結果、がん細胞は硬い基質上の血管シートに多く侵入する一方、軟らかい基質上の血管シートにはあまり侵入しないことが明らかとなった。このように2018年度はIn vitroの実験系を確立することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は2018年度に確立したIn vitroの実験系を用いてがん細胞が硬い基質上の血管シートに侵入する分子機構を解析する。具体的には、マイクロアレイまたはRNA-seqを用いて候補分子を探索し、その機能を解析する。同時に、さまざまな種類のがん細胞を用いて転移の共通性を確かめる。具体的には、肺がん細胞、乳がん細胞、卵巣がん細胞を用いて、それぞれのがん細胞がどの硬さの基質上の血管シートに侵入しやすいかを調べる。 加えて、In vivoの実験も進める。転移しやすい臓器として知られる肺や肝臓などの結合組織(コラーゲンリッチな領域)の硬さを原子間力顕微鏡で測定する。さらに、In vitroの実験系で同定した分子をノックアウトしたがん細胞を樹立し、それをマウスに移植して転移能が変化するかどうかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度はIn vitroでの実験を中心に進め、そのために必要となった設備や消耗品を購入した。その結果、In vitroの実験ではポジティブな結果がいくつか得られつつある。2018年度に予定していたIn vivoでの実験はまだ準備段階であり、翌年度にそれを行うべく予算を計上した。
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