がんによる死因の90%ほどは転移が原因であるが、転移を止めることのできる有効な治療法はいまだ確立されていない。本研究では「転移先の共通性」をもたらす原因について、「組織の硬さ」に着目して解明することを目的としている。そして転移をターゲットとしたがん治療法を提案する。 2019年度は転移をIn vitroの細胞培養系で観察するために、ライブイメージングの実験系を確立することを目指した。まずは血管内皮細胞の細胞間で発現するVE-cadherinを赤色蛍光標識したタンパク質を発現するためのベクターを作成した。それを血管内皮細胞に強制発現させたのちに株化し、細胞間で赤色蛍光を発する血管内皮細胞を樹立した。それを用いて血管シートを作成し、その上に緑色蛍光タンパク質を発現する肺がん細胞株を播種し、転移の様子をライブイメージングにより観察した。その結果、肺がん細胞が血管シートに侵入する様子を三次元的に観察することに成功した。 また、硬い基質上と軟らかい基質上の血管内皮細胞における発現遺伝子の違いを解析した。転移に寄与することが報告されている分子についてqPCRによりスクリーニングを行ったところ、硬い足場上の血管内皮細胞で高発現する遺伝子を3種類同定することに成功した。 以上の通り、がん細胞が血管シートに侵入する様子をIn vitroでライブイメージングすることに成功し、血管内皮細胞が基質の硬さを認識して発現を変化させる遺伝子の同定に成功した。しかしながら、上記の結果を得た際の血管シートでは血管内皮細胞が激しく運動していたため、In vivoの状態を反映していない可能性がある。今後は実験条件を検討し、血管内皮細胞が動かない培養方法を確立するとともに、転移に対する組織の硬さの寄与を調べる。
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