研究課題/領域番号 |
18K15233
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉野 優樹 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (60755700)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中心体 / BRCA1 / RACK1 / 遺伝性乳がん / PLK1 / Aurora A |
研究実績の概要 |
BRCA1は乳がんの重要ながん抑制遺伝子の一つだが、その機能障害が乳腺組織特異的にがん化を生じる理由は未解明である。我々は乳がんのがん化初期に出現する中心体増幅に着目していたが、BRCA1と複合体を形成する分子としてOLA1およびRACK1を同定したところ、これらの分子がBRCA1とともに乳腺由来細胞特異的に中心体を制御することが明らかになった。よって、乳腺のがん化においてBRCA1/OLA1/RACK1複合体 (中心体型BRCA1複合体)による乳腺特異的な中心体制御機構の破綻が重要な役割を果たすと考えられた。これまでに、RACK1がBRCA1の中心体における局在を制御すること、およびRACK1の発現量が中心体複製の主要制御因子であるPLK1の活性を調節することを見出している。本研究は、RACK1によるBRCA1の中心体局在制御機構およびPLK1の活性制御機構の解析を行い、中心体型BRCA1複合体の機能障害による組織特異的発がんの分子機構を解明することで、BRCA1関連乳がんの新規治療法、予防法開発の分子基盤を確立することを目指すものである。 2018年度には中心体におけるBRCA1複合体の詳細な局在の解析を行った。複数のがん細胞株を用い、CRISPR/Cas9系を用いて内在性のセントリン遺伝子にEGFP遺伝子をノックインし、中心小体のマーカーであるセントリンをEGFP標識した細胞を樹立した。これを用い、BRCA1、RACK1の中心小体内の微小構造レベルでの局在を、超解像顕微鏡である構造化照明顕微鏡を用いて解析した。その結果、中心小体壁を構成するタンパク質との共局在が観察された。このタンパク質をクローニングし、共免疫沈降法で解析したところ、このタンパク質がBRCA1の新たな相互作用タンパク質であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超解像顕微鏡を用いてBRCA1とその関連因子の局在開発を行うにあたり、中心小体マーカーであるセントリンを蛍光タンパク質で標識する必要があったが、CRISPR/Cas9系を用いることでスムーズかつ迅速に内在性セントリンを標識した株を得ることができた。また、当初用いていた抗体ではバックグラウンドが高く、詳細な局在解析が困難であったが、別の抗体を購入して用いたところ、非常に明瞭な像を得ることができ、BRCA1複合体の局在部位を詳細に絞り込むことができた。このため、局在部位から新たな相互作用タンパク質候補を想起することができ、実際にBRCA1の新規相互作用タンパク質を見出すことができた。本タンパク質は中心小体複製シグナルの制御において非常に中心的な働きをすることが知られており、中心体複製制御系におけるBRCA1の標的として有力であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度にBRCA1複合体の中心体内での微小局在部位を決定することができた。これによって、中心体複製制御に関与すると思われるBRCA1の新規相互作用タンパク質の同定ができた。今後、本タンパク質とBRCA1およびその関連因子との相互作用部位の決定、BRCA1およびその関連因子の発現量や変異による本タンパク質の局在や機能の変化等の解析を行い、中心体複製制御系における中心体型BRCA1複合体の役割を解析していく予定である。 また、我々はこれまでに中心小体複製のタイミングが、乳腺由来細胞と非乳腺由来細胞とで異なることを見出し、報告している。今回我々が同定したBRCA1の新規相互作用タンパク質は中心小体複製を制御するPLK1およびPLK4の活性・局在の制御に寄与する因子であることが知られており、今後本タンパク質、およびPLK1、PLK4の活性化の時期や程度を乳腺、非乳腺由来細胞で解析し、中心小体複製の組織特異性の原因の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入した抗体が予想よりも低濃度で使用可能であり、当初想定より使用量が減少した。また、現在投稿準備中の英語論文の英文校正にキャンペーン価格が適用され、費用が圧縮された。これらのために、当初予定よりも使用経費が少なく済んだため。 今後、次年度使用額分で当初予定にはなかった新たな中心小体マーカータンパク質への抗体を購入し、BRCA1複合体の局在部位のさらなる絞り込みに用いる予定である。
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