研究課題
本研究課題において我々は通常培養条件下でEMT/METを起こして常に上皮様・間葉様の細胞集団が存在するHCC38乳癌細胞株のEMT関連因子の探索を行った。まず効率的な上皮・間葉細胞の分離のため、E-cadherin, Vimentinプロモーター下でmKO2もしくはEGFPが誘導されるレンチウイルスベクターを感染させ、HCC38-KV細胞を作成した。mKO2陽性、およびEGFP陽性細胞をFACSにより分取して上皮・間葉マーカーの発現を解析した結果、この細胞は染色の必要なく上皮・間葉細胞を分離可能であることが示された。次に、CRISPR/Cas9法を用いて特定遺伝子を欠損させることでEMTの阻害やMETの促進を誘導出来ることに着目し、Cas9遺伝子と共に約2万遺伝子に対する12万ガイドRNA(gRNA)からなるgRNAライブラリをレンチウイルスベクターを用いて感染させ、3週間後に上皮画分と間葉画分をFACSにより分離して次世代シーケンサーによるgRNA存在比の比較を行った。既知のEMT促進因子であるZEB1やSNAI2に対するgRNAの存在量が間葉様細胞の画分で減少していることを確認し、同様に変化した約3000遺伝子に対するgRNAからなる2ndスクリーニング用ライブラリを作成した。同様に間葉様細胞の画分で存在量が増加したgRNAについても2ndスクリーニング用ライブラリを作成した。更に、上皮様・間葉様細胞で発現量に変化がある遺伝子についてもEMT/METへの関与が推測されるためこれらに対するgRNAライブラリも作成し、合計4種類の2ndスクリーニング用のgRNAライブラリを準備した。
2: おおむね順調に進展している
全遺伝子を対象とした1stスクリーニングが終了し、スクリーニング法の確立と遺伝子の絞り込みに成功した。注目した遺伝子に対するgRNAを比較的均一に持ったオリジナルなgRNAライブラリの作成に成功した。また、上皮様細胞で発現が高い遺伝子群、および間葉系細胞で発現が高い遺伝子群に対するgRNAのライブラリもそれぞれ作成し、均一性の確認を行った。更に、上皮間葉転換への関与が報告されている複数のmiRNAについてHCC38細胞の自発的EMTへの影響を調べた。その結果、一部のクラスターを形成するmiRNAにおいてCRISPR/Cas9法でmiRNA配列を破壊した際に間葉系画分の増加が見られた。これらの結果から、HCC38細胞における自発激EMTはmRNAの転写、および翻訳調節など様々な因子が関与していることが分かった。以上の結果から研究が順調に伸展していると考えている。
今後は作成した4種類のgRNAライブラリ(①全遺伝子スクリーニングでEMTへの関与が見られたgRNAライブラリ、②全遺伝子スクリーニングでMETへの関与が見られたgRNAライブラリ、③上皮様細胞で発現の高い遺伝子に対するgRNAライブラリ、④間葉様細胞で発現の高い遺伝子に対するgRNAライブラリ)を用いた2ndスクリーニングを行い、その結果から乳癌のEMTに関する新規の分子やシグナル伝達の同定を試みる予定である。EMTやMETへの関与が明らかとなった因子についてはHCC38以外の乳癌細胞株(例えば自発的EMTが見られるHCC1143細胞など)を用いて乳癌一般における影響を検討する。更には担癌マウスモデルや乳癌発癌マウスを用いて癌悪性化に与える機構の解明を進めたい。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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