本研究の目的は、血管新生に重要な役割を持つVEGFAの転写を抑制する化合物を見出し、VEGFA新規転写制御機構を同定することである。独自に樹立した高転移性口腔扁平上皮がん細胞株 (HOC313-LM)と400種類の化合物を搭載したライブラリーを用いて、VEGFAの発現を抑制する化合物をqRT-PCRで解析した。その結果、VEGFAの転写を抑制する複数の候補化合物を抽出した。興味深いことに候補化合物のほとんどは同一のシグナルを抑制する機能を持つものであり、現在までにVEGFAの転写を抑制する報告はほとんどない。VEGFAの転写は、HIF1によって低酸素下で誘導されていることがよくわかっているが、今回、抽出した候補化合物は、作用点がHIF1ではないためHIF1の発現に依存しない可能性がある。これら候補化合物は、VEGFAの転写を抑制し、タンパク質量も低下させることをELISA法にて確認した。また、候補化合物を血管内皮細胞に処理することにより血管の形成阻害を引き起こすことを明らかにした。さらに、ニワトリ胚を用いた血管新生アッセイにおいても、候補化合物の処理によって血管新生が抑制された。詳細な分子メカニズムを同定するため、候補化合物を処理した後、通常酸素および低酸素条件下で培養したサンプル回収し、遺伝子発現アレイ解析を施行した。アレイ解析の結果、VEGFAを含む低酸素下で誘導される遺伝子が、候補化合物の処理によって発現抑制されていることを明らかにした。さらに、候補化合物の標的遺伝子を明らかにするべく、標的候補となりうる遺伝子を抽出し、siRNAによるスクリーニングを施行した。その結果、Gene AがVEGFAの発現制御に関与している可能性を見出した。今後、Gene Aの詳細な解析を施行し、血管新生にどのように関与しているのかを明らかにしていく予定である。
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