研究実績の概要 |
肺癌のEGFR変異に対するゲフェチニブやエルロチニブの効果は70-80%、ALK癒合変異に対するクリゾチニブの効果は65%と報告されており、変異分子を標的にした治療は極めて効果が高い。変異型KRASはEGFR変異やALK癒合変異と同様に下流の分子を恒常的に活性化し、増殖、浸潤、転移等に強く関与しているが、それを標的とした治療は未だ見出されていない。 我々はIn vitroでKRAS遺伝子変異大腸癌に有効な薬剤をスクリーニングし得るミックスカルチャーアッセイを確立し、①KRAS変異大腸癌細胞はMEK阻害剤の感 受性が高いこと、②MEK阻害剤の長期使用により抗アポトーシスタンパク(BCL-2やBCL-XL)の発現が上昇すること、③MEK阻害剤とBCL-2、BCL-XL阻害剤の併用は より選択制の高い分子標的治療になり得ることを明らかにした。さらに我々は、MEK単独阻害とMEKとBCL-XL同時阻害による細胞死のメカニズムや、抗アポトーシスタンパクの機能解析を行った。KRAS遺伝子変異を有する大腸 癌細胞はKRAS野生型と比較し、BCL-XLのタンパク発現量が有意に上昇しており、BCL-XL阻害剤にてアポトーシスが誘導され易いことを証明した。また、In vivo でも、ヌードマウスに皮下移植実験にてMEK阻害剤とBCL-2、BCL-XL阻害剤の併用が、KRAS変異大腸癌に有効であることを証明した。 本研究の成果は、International Journal of Oncology (Koyama M, Kitazawa M, et al. Int J Oncol.2020;57:1179-91 に掲載され、2020年日本癌治療学会総会にて報告した。2021年の消化器癌発生学会のシンポジウムでもその内容を報告し、優秀演題賞を受賞した。またKRAS変異G12C大腸癌に新規薬剤AMG510とMEK阻害の2剤併用、さらにはBCL-XL阻害剤を加えた3剤併用の効果をIn vitroで証明し報告し(Kitazawa M, et al. Mol Clin Oncol. 2021;15: 148.)、2021年日本癌治療学会で発表した。
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