研究実績の概要 |
Hippo経路は進化的に保存されたシグナル伝達経路であり、上流のHippoコア複合体は2つのキナーゼ (MST1/2, LATS1/2) とそのアダプター分子 (SAV1, MOB1) からなり、下流の転写共役因子YAP1 (あるいはそのパラログであるTAZ) を負に制御する。一方、頭頚部扁平上皮がん(HNSCC)の発症分子機構としては、EGFR, c-myc, Notch, Ras, p16, p53の異常が報告されているものの、高頻度に共通する異常はまだ見つかっていない。また、これら遺伝子は単一変異ではHNSCCを早期から再現できないことから、他の遺伝子変異の蓄積が必要と考えられる。我々は、(1)マウス口腔でタモキシフェン誘導性にHippo経路構成遺伝子MOB1を欠損させると早期に全例浸潤がんとなること、(2)ヒト口腔がんで発がん前の異形成の頃より9割以上の症例でHippo経路のエフェクター分子YAP1の高い活性化が認められること、を見出してきた。今年度はHippo経路異常による発がんにおけるYAP1やTAZの依存性を検討した。MOB1に加えてYAP1あるいはTAZを同時に口腔で欠損したマウスを作製し、がん病態を回復可能かどうかを調べたところ、YAP1の同時欠損ではほぼ正常に回復したのに対し、TAZを同時に欠損させてもがん病態はほとんど回復しないことが判明した。また、YAP1-TEAD結合阻害剤VerteporfinがMOB1欠損によるHNSCCの発症を予防できることを明らかにした。このことは、YAP1の活性化がHNSCC発症に重要であることを示唆する。 現在、HNSCCで見出される遺伝子異常の蓄積によってYAP1の活性化が起きるかどうか検討中である。
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