研究課題/領域番号 |
18K15243
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
妹尾 彬正 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (10759210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エンドセリン1 / iPS細胞 / がん幹細胞 / ボセンタン |
研究実績の概要 |
近年になってがん幹細胞という概念が提唱され、がん組織の中でもその存在が示されてきている。がん幹細胞は通常の幹細胞と同様に多分化能や自己再生能を持ち、がんの薬剤耐性との関わりが大きいとされている。また、がんは現在のところ遺伝子の異常により生じるとされている一方で、がん幹細胞には造腫瘍能がある。これまでに、申請者らはがん細胞馴化培養液を用いることでiPS細胞からがん幹細胞を誘導し、誘導したがん幹細胞からがんが発症しうるということを示してきた。また、がん組織において重要とされるがん微小環境を維持するためにもがん幹細胞が重要な役割を果たしているということも明らかにしてきた。これらのことから誘導したがん幹細胞ががん研究に新しい知見をもたらすことが期待される。しかしながら未だ馴化培養液中のどの因子ががん幹細胞の誘導に重要であるかは明らかとなっていない。 申請者らは誘導したがん幹細胞の遺伝子発現をiPS細胞とがん細胞、さらに他グループが見出したがん幹細胞と比較解析を行うことで、エンドセリン1(ET1)が各種がん幹細胞で共通に高発現していることを明らかにした。ET1はがんにおいて、自己および傍分泌によりエンドセリン受容体を介してAkt、MAPK、PKC、EGFRといったシグナル伝達経路を経ることで、がん細胞の増殖や浸潤、転移や血管新生、さらにはアポトーシスの回避に関わることが明らかにされている。しかしながら、ET1とがん幹細胞との関係については明らかとされていない。そこでこの研究ではET1がiPS細胞からのがん幹細胞への分化や増殖に影響を与えるかどうかに着目して解析を行い、ET1及びその受容体を阻害することでがんの発生及び治療におけるそれらの役割を明らかにしようとするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実験開始当初に予定していた方法ではiPS細胞のオンフィーダー培養に問題はなかったが、フィーダーフリー状態での長期間のiPS細胞培養を行うことができなかった。ET1がiPS細胞に与える影響を調べるためには、iPS細胞以外の細胞は除去して培養する必要があり、そのための条件検討に時間を要してしまった。また、研究予定年度途中に申請者が実験を行っていた研究スペースが所属する大学の都合により契約を打ち切られることとなり研究スペースの移動を余儀なくされ、予定していた実験のために充分な時間を確保することができなくなってしまった上、コロナウイルスにより研究中止要請が出てしまうなど期間内に研究を十全に進めることができなかった。 現時点までに用いていたiPS細胞用の培地を改めることで、長期間の培養でも問題がないことを見出している。ET1ががん細胞馴化培養液中にどの程度存在しているのかを調べた際には、いずれの培養液中でもpg/mLオーダーでの存在が確認されている。現在までにそれらがん細胞馴化培養液と同程度の濃度のET1を用いて1ヶ月間のiPS細胞培養を終えている。この期間はがん細胞培養上清を用いたiPS細胞からのがん幹細胞誘導に十分な時間であることから、ET1ががん幹細胞を誘導するにも十分な時間であると考えられる。また、昨年度までに出ていた結果ではiPS細胞の長期間の培養に不適切な培地を使用していたことからその結果に疑義が生じているため、短期間での培養でも長期間培養時と同じ培地を用いた上で結果を再検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、 10~100 pg/mLのET1を用いて長期間の培養を行うことができたiPS細胞にがん幹細胞マーカーの発現が見られるかどうかを確認する。次に100 pg/mL~100 ng/mLのET1を短期間iPS細胞に加えた際のET1がiPSCに与える増殖やPGE2産生への影響を調べる。 ET1の受容体にはA型(ETA)とB型(ETB)の2種類が存在しており、ETAの下流では細胞増殖が制御され、ETBの下流ではPGE2の産生が促進されるという報告がある。そのため、ET1がiPS細胞及びがん幹細胞に及ぼす効果をETA/B阻害剤であるボセンタンを用いてその阻害作用を評価する。 以上の結果に加え、可能であれば免疫不全マウスへのがん幹細胞移植及びボセンタンを用いたがん治療予測まで行った上で、学会での研究発表及び学術雑誌への投稿を行う。
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