再生医療においてiPS細胞が大きく着目されているが、iPS細胞のその他の活用法として種々の病気の原因となるような細胞に誘導できることがある。そのような細胞を用いる疾病発生モデルでは、病気がどのようにして発症するのかを知る手がかりが得られ、これまで知りうることのできなかった病気の発症原因の解明につながることが期待されている。がん研究においても同様で、正常なiPS細胞の培養培地にがん細胞の培養上清を添加して培養することでがんの発生に重要ながん幹細胞が誘導できるという研究も徐々に注目を集めてきている。がん細胞の培養上清にはがん細胞からの様々な分泌物が含まれているが、そのいずれが重要であるのかまでは詳細が明らかとなっていない。申請者らが過去に行ったマイクロアレイデータ解析から、iPS細胞をがん幹細胞に誘導する可能性のある物質としてエンドセリン1(ET1)が示唆されていた。 その重要性を確かめるために、iPS細胞からがん細胞培養上清を用いて誘導したがん幹細胞でエンドセリン受容体の遺伝子発現を確かめると、その1つであるEDNRBの遺伝子発現が上がっていた。また、がん細胞培養上清にもET1が含まれていることが確認された。そこで、がん細胞培養上清に含まれる量のうち最大量となる1 ng/mLのET1を添加してiPS細胞を培養したところ、マウスに細胞を移植してその造腫瘍能を確認する実験において、ET1単独でがん幹細胞を誘導できる上、マウスの腫瘍の発症率も高いことを明らかにした。 今後の課題として、ET1で誘導したがん幹細胞の遺伝子発現などvitroでの表現系を詳細に検討する必要がある他、低いET1濃度でも腫瘍形成に効果があるのかどうか、細胞内シグナルがどうなっているのかなど詳細に検討する必要がある。
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