肺がん細胞と肺線維芽細胞・がん関連線維芽細胞の間における、プロスタグランジン類を介した活性化制御について検討を行った。肺がん細胞株をPGE2、PGD2で刺激するとEMTマーカー発現、細胞増殖能や遊走能は上昇した。正常な肺線維芽細胞と比較すると、がん関連線維芽細胞ではCOX-2発現が上昇していたものの、プロスタグランジン類の産生量は低く保たれていた。 がん細胞を培養した培養液中にはPGD2、PGE2が含まれており、この培養液により線維芽細胞が活性化すること、その作用はCOX-2阻害剤で打ち消されることが明らかとなった。細胞種間のクロストークをさらに解析するため、トランスウェルでの共培養ならびに線維芽細胞もしくはがん関連線維芽細胞を混ぜたゲル上でがん細胞を培養する3D培養を実施した。いずれの場合も共培養によってがん細胞の活性は上昇し、がん関連線維芽細胞を用いた場合により強く観察された。 研究期間全体を通じて、PGE2ならびにPGD2はがん細胞とその周囲に存在する線維芽細胞の双方を活性化することが明らかとなり、両者の細胞間においてはがん促進傾向に作用することが示唆された。その一方で、マウスにおける検討では逆の傾向となり、PGD2合成酵素遺伝子を阻害した場合にはがんが増悪した。がんの発生や進展・転移には免疫系細胞を含めた多種の細胞が関与していることから、それらに研究対象を広げることによって肺がん微小環境におけるプロスタグランジン類の作用の全体像を把握できると考えている。
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