前年度の見解に基づき、CpG islandだけでなく、CpG shoreおよびshelfも含め、HMCC群における正常大腸粘膜と腫瘍組織との間でメチル化状態が変化している領域を抽出した。その結果、355の遺伝子に関連するCpG領域が、正常大腸粘膜ではメチル化されておらず、腫瘍組織では高度にメチル化されていることが明らかとなった。 上記で抽出されたCpG領域について、本研究で取得した100サンプルと、別途施行された大腸癌の網羅的遺伝子発現解析で取得されたデータとをあわせた、合計139例の検証データセットでHMCC群とLMCC群とを比較すると、HMCC群のみで特異的にメチル化されている領域を含む遺伝子が62個抽出された。これらの遺伝子のいずれかに生じた、メチル化状態の変化による遺伝子発現異常が抗EGFR抗体薬の治療感受性の差を生じているものと考えられた。本考察をふまえ、実際に139例の検証データセットを用いて、62個の遺伝子についてHMCC群とLMCC群とで有意に発現状態に差のある遺伝子をWilcoxon/Kruska-Wallisの検定を用いて探索したが、両群で有意差を示す遺伝子は同定されなかった。 今回の研究で、抗EGFR抗体薬の治療感受性に寄与する遺伝子セットを抽出できなかった原因として、解析対照群には少なからずRAS遺伝子およびBRAF遺伝子に変異を有する症例が含まれていることが挙げられた。これらの遺伝子変異はいずれも抗EGFR抗体薬抵抗性に寄与することがしられており、RAS/BRAF遺伝子野生型の症例に解析対象を絞ることで、メチル化異常による遺伝子発現異常が抗EGFR抗体薬の治療感受性に与える影響をより厳密に評価可能となると考えられた。 現在上記解析を追加施行中であり、今後研究成果を関連する学会および科学雑誌で発表する予定である。
|