本研究では人工多能性幹細胞(iPSC: induced pluripotent stem cell)から細胞傷害性T細胞(CTL: cytotoxic T lymphocyte)を作製する分化培養法と作製したCTLを高効率に増幅する拡大培養法をいずれも完全フィーダーフリー条件で実現した。T細胞免疫療法では輸注T細胞を疲弊させることなく大量に調製する事が必須条件である。現在では分化と拡大培養を組み合わせて1ディッシュのiPSCから10^15個以上のiPSC由来CTLを完全フィーダーフリー条件で作製できるようになっており、既製品T細胞を患者に他家移植する棚卸方式が可能になりつつある。 分化培養系と拡大培養系の完全フィーダーフリー化によって生理活性物質など有用因子の探索も容易になっている。筆者らはiPSCから造血前駆細胞、造血前駆細胞からT細胞系列への運命決定、T細胞前駆体から成熟CTLへの分化、成熟後のCTLの増殖まで培養系を細分化しており、それぞれのステージにおいて有用サイトカインをいくつか同定している。これらの知見はT細胞分化の基礎研究、特に倫理的、技術的制約のあるヒトT細胞研究に大いに資すると考える。 iPSCからのヘルパーT細胞の分化についてはフィーダー有りの条件では実現しているものの、フィーダーフリー条件では実現できていない。ヘルパーT細胞の分化経路はCTLと多くを共有するため現状のCTLの分化はヘルパーT細胞分化にも応用可能である。フィーダー有り培養系の知見も使いながら将来的にはT細胞免疫療法を大幅に改善させ得るヘルパーT細胞の分化も実現したい。
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