研究実績の概要 |
本研究の最終目的は一言で言えば『においで癌を診断する』ことであり、我々はにおい(病臭)を特徴づける癌に特異的な化合物(バイオマーカー)を検出できるか探索した。今回そのための機器としてシリカモノリス構造を有する気化成分捕集剤(MonoTrap)とガスクロマトグラフ質量分析技術(GC/MS)を組み合わせた手法を開発した。本手法により非侵襲かつ簡便に生体内の揮発性有機化合物(VOC)を採取、分析する事が可能となった。 まず癌に特徴的なVOCを広く探索するために、原発性肺癌患者11名と健常者12名の皮膚ガスサンプルおよび呼気サンプルをMonoTrapを用いて回収した。これらをGCMSで定性解析し、皮膚ガス内の27成分と呼気ガス内の3成分をマーカー候補として検出した。次にこれらの候補成分について、別の肺癌患者10名と非肺癌患者9名の皮膚ガス・呼気サンプルを回収しGC/MSの選択イオン検出(SIM)モードで定量解析を行った。肺癌患者に多く検出される成分を統計学的に検討した結果、皮膚ガス内の3成分(Pyridine, 2-methyl; p=0.063, Acetophenone; p=0.067, 1-Tetradecanol Hexadecane; p=0.042)と呼気ガス内の2成分(Limonen; p=0.027, Acetamide; p=0.039)が癌患者に有意に多く検出された。またこれらの候補マーカーと免疫機能の関連を調べるために追加解析として肺がん手術患者において本マーカーの多寡とCD4, 8, 20陽性リンパ球の多寡の関係を調査した。その結果Acetamideが高値の症例ではCD8, 20陽性リンパ球が共に低く、低値の症例ではCD8, 20共に高いという結果であった。これらのVOCマーカーに暴露されている肺がん患者では免疫機能が抑制されていることが示唆された。
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