研究課題
2018年度の研究において、IDH変異を伴うグリオーマにおいて、19q欠失を伴う一群は、乏突起膠腫様の組織像を示すと共に予後良好であることを確認した。IDH変異(+)、TP53変異(+)の群の一部に、1p正常、19q欠失の腫瘍を一部に認めている。自験例170例のグリオーマにおいて、75例にIDH変異を認め、その内19q正常は12例、19q欠失は7例、1p19qLOHは23例認めた。19欠失群全例において、乏突起膠腫様の組織を認めた。全生存期間は、19q欠失群が19q正常群と比較し有意に長かった(p=0.001)。むしろ、1p19qLOHを伴う乏突起膠腫に近い予後であった。19q欠失群における他の遺伝子変異を解析すると、星細胞腫で認めるTP53変異を全例に認め、乏突起膠腫に認めるTERT promotor変異は全例で認めなかった。これらの結果は、遺伝子学的分類では1p19qLOHを伴わないAstrocytomaに分類されるものの、19q欠失が加わることで病理学的、臨床的に明らかに異なる1群となり得ることを示唆している。一方、IDH変異を伴わない膠芽腫においては、19q欠失の有無は予後に影響していなかった。ここまでの結果を論文にまとめて発表した。続いて、2019年度は19q-lossが予後に関連するメカニズムを明らかにするべく、マイクロアレイによる網羅的発現解析を行う計画となっていたが、予定より早く2018年度の結果が得られたため、2019年度に行う予定であった発現解析を2018年度後半に前倒しで行った。19q-lossがあるastrocytoma 6例と、19q-lossを伴わないastrocytoma 5例の計11例の凍結検体を用いて、マイクロアレイにて網羅的遺伝子発現解析を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は次年度に発現解析を行う計画としていたが、予定より早く今年度の結果が得られたため、次年度行う予定であった発現解析を今年度後半に行った。今回、発現解析を前倒しで行うことにより、計画より早期に結果が得られる可能性があり、次のステップの遺伝子機能解析に早期に進むことができると思われる。結果として、より深く幅広い解析が行えると考えている。
今後、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析の結果を用いて、19q正常astrocytomaと19q欠失astrocytomaを比較し、予後が良好である要因、乏突起膠腫様の病理像を呈する要因となる遺伝子を探索する。特に19q上の遺伝子との関連を評価する。さらに関与する遺伝子から、関連するシグナル伝達経路を同定する。責任遺伝子が同定されれば、その遺伝子の機能解析へと進める。グリオーマ細胞株を用いて目的遺伝子発現をノックダウンし、in vitroにおける細胞の形態変化、増殖能の変化を確認する。これをヌードマウスの脳へ移植し腫瘍形成させることで、in vivoにおける増殖能への影響、および組織像への影響を解析する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Cancer Science
巻: 109 ページ: 2327~2335
10.1111/cas.13635