研究課題/領域番号 |
18K15287
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
和田 美加子 埼玉医科大学, 医学部, 研究員 (50810090)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝子治療 / ウイルスベクター / ゲノム編集 / 免疫不全症 / 造血幹前駆細胞 / SCID-X1 |
研究実績の概要 |
近年、ゲノム編集技術を利用した遺伝子治療でよく用いられている方法の一つに、CRISPR/Cas9のような人工制限酵素と正常配列ドナーDNAを用いて、遺伝子変異箇所を切断し、相同組換え修復で治療する方法がある。しかし、この方法には、CRISPR/Cas9のオフターゲットによりドナーDNAが意図しない領域に挿入されることが懸念され、臨床応用に向けては、高い正確性と高頻度な遺伝子修復効率を持ち合わせた方法を達成することが必要とされている。そこで、ゲノム編集による遺伝子修復法を用いた難治疾患の治療として、当研究室で独自に開発された、高頻度に相同組換えが起こり正確な遺伝子修復が可能な、ヘルパー依存型アデノウイルスベクター(HDAdV)と、CRISPR/Cas9システムを組み合わせた"all-in-one CRISPR-HDAdV"を用いた遺伝子修復方法を考えた。このベクターにはCRISPR発現カセットと、修復用のドナー配列が一つのベクターに集約されているため、高頻度で正確かつワンステップで遺伝子修復を行うことができ、治療への実用化が期待できる。さらに、このベクターは標的遺伝子の全エクソンを含むゲノム配列がドナー配列に含まれているため、仮に標的配列以外の領域に組込まれても治療効果が期待できる。 このベクターを評価するため、ヒト白血病細胞株K562細胞に導入し遺伝子修復実験を行った。比較対象として、CRISPR プラスミドと標的配列であるIL2RG配列を含むドナープラスミド、CRISPRプラスミドとドナーHDAdV、HDAdVのみを用いて、修復実験を行ったところ、all-in-one CRISPR-HDAdVで全細胞の約70%という高頻度でドナーHDAdVが組み込まれた。さらに、標的配列に正確にカセットが挿入された頻度は全細胞の約30%で、いずれも他の比較対象より高い組込頻度を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X連鎖重症複合免疫不全症 (SCID-X1) の治療法としてSCID-X1の原因遺伝子であるIL2RG配列をドナー配列として用いた。all-in-one CRISPR-HDAdV ベクターを評価するため、K562細胞に、1) all-in-one CRISPR-HDAdV ベクター、2)CRISPR発現プラスミド+ドナープラスミド、3)CRISPR 発現プラスミド+ドナーHDAdV、4)ドナーHDAdVのみを用いてゲノム編集を行った、ドナー配列にはネオマイシン耐性遺伝子が含まれており、ネオマイシンセレクションを行うことでドナーの組込み頻度を見た。その結果、ネオマイシン耐性は1) all-in-one CRISPR-HDAdVでは全細胞の約70%、2)CRISPR発現プラスミド+ドナープラスミドでは約10%、3)CRISPR発現プラスミド+ドナーHDAdVでは約60%、4)ドナーHDAdVのみでは約30%の頻度で得られ、all-in-one CRISPR-HDAdVベクターで高い組込み頻度が得られた。さらに、標的配列の正確な組込み頻度を見るため、ゲノム編集後の細胞のゲノムDNAを用いてPCRを行った。その結果1)all-in-one HDAdV-CRISPRベクターを用いた時に全細胞の約30%、3)CRISPR発現プラスミドとドナーHDAdVを細胞に導入した時は約10%の組込み頻度が得られ、all-in-one HDAdV-CRISPRで高い組込み頻度が得られた。他の比較群の組込み頻度も現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのドナーDNAにはネオマイシン耐性遺伝子が含まれ、またK562細胞にはIL2RG正常配列があるため、修復した遺伝子をmRNAやタンパク質レベルで機能的に解析することはできなかった。そこで、IL2RGをノックアウトしたK562細胞(IL2RG KO K562細胞)とネオマイシン耐性遺伝子を除いた修復用ベクターHDAdVを作製している。これは当初予定していなかった実験だが、修復した遺伝子の機能解析は臨床応用にむけて必要であると考えられる。IL2RG KO K562細胞にネオマイシン耐性カセットを含まないall-in-one CRISPR-HDAdVベクターを感染させ、IL2RG遺伝子がmRNAおよびタンパク質レベルで回復しているかをウェスタンブロットやRT-PCRで調べる予定である。 さらに近年、遺伝子治療でよく使われているアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)と遺伝子修復効率の比較を行うため、ドナーAAVを作製し比較する。 また造血系疾患治療での標的細胞であるCD34陽性造血幹前駆細胞でも同様に遺伝子修復実験を行い、SCID-X1の治療効果が認められるとされる、形成コロニーの10%以上で遺伝子修復が行われる効率を目指す。さらに、各種サイトカインを含むメチルセルロース培地で培養し、コロニー形成させ、遺伝子修復実験の操作が造血幹前駆細胞の分化や増殖に影響を与えないかを確認する。 また、CRISPR/Cas9システムで懸念されるオフターゲット変異を解析するため、CIRCLE-seq法を行いゲノム上のオフターゲット箇所を同定する。オフターゲットを減少させる必要がある場合はウイルスの感染量、Cas9タンパク質の発現制御ができる遺伝子やモチーフを入れ、高頻度な修復効率を維持した安全性の高い修復実験条件を決める。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子修復効率を当初予定していたTIDE法を用いず、より安価なPCRで行ったため予定していた金額を消費しなかった。今年度は標的遺伝子IL2RGを修復後にmRNAやタンパク質レベルで解析するため、IL2RG KO K562細胞と修復用のネオマイシン耐性を持たないall-in-one CRISPR-HDAdVを作製する予定である。そのため最終的には計画した金額を消費する予定である。
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