本研究計画は、グリオーマ幹細胞へ遊走・指向性を示すinduced pluripotent stem cell (iPS細胞)由来の神経幹細胞(NSC)に自殺遺伝子(HSVtk)を導入する新規治療法を開発することを目的とした。メタボローム代謝解析により、HSVtk導入iPS細胞に対してプリンヌクレオチド及びピリミジンヌクレオチド合成経路を解析した結果、HSVtkはiPS細胞に対して細胞毒性を有することがわかった。そこでiPS細胞由来NSCに対してHSVtkを導入する場合は、レンチウイルスベクターでNSCに遺伝子導入し、細胞毒性による影響が及ぶ前にグリオーマモデルマウスに移植することが妥当であると結論づけ論文報告した。一方で、ウイルスベクターでの遺伝子導入では染色体にランダムに挿入されるため、挿入部位の遺伝子変異や周辺遺伝子の活性化、位置効果による自殺遺伝子の不活性化が考えられるため臨床応用に際し懸念され、さらにNSCではなくiPS細胞への遺伝子導入が治療用NSCの安定供給のため重要であると考えた。そこで、Tet-inducible HSVtkを、ハウスキーピング遺伝子領域にCRISPR/Cas9でiPS細胞に遺伝子導入し、ドキシサイクリン非投与下でNSCに誘導させる方針を立てた。その結果NSCに誘導された治療用細胞をグリオーマモデルマウスU87に移植後、ドキシサイクリンを投与することで、マウス生体内で遺伝子発現させ、プロドラッグを投与し抗腫瘍効果を発揮させることに成功し、腫瘍体積の縮小及び生存期間の延長効果を示した。ゲノム編集技術を利用することで、周辺遺伝子の活性化等もなく安全に治療用NSCを作製することに成功した。一方で、ドキシサイクリン投与後はやはりHSVtkの細胞毒性の問題から、長期間マウス生体内で生着させることが困難であるという課題も明らかとなった。本研究計画は、ゲノム編集技術及び遺伝子細胞療法を組み合わせた今後の新たな治療戦略の先駆けとなると考えている。
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