総計286件の肺がん腫瘍組織を移植し、82株のPDXを作成した。このうち遺伝子変異を有する非小細胞肺がんPDXは20株であった。概して薬物治療を受けた後の患者検体で生着率が高く、治療前の検体で生着率が低い傾向を認めた。特にEGFR遺伝子変異陽性例では、治療前検体からの生着株はなく、治療前よりも薬物治療後の腫瘍において悪性度が高まり増殖が著しく、生着しやすいものと考えられた。 これらの生着したPDXのうち、EGFR 1株、ALK 2株、ROS1 1株、HER2 amplification 1株の5株を使用し、患者で投与された薬剤および未承認薬の薬効評価を実施した。この結果、患者における治療効果と一致する例、一致しない例を認め、PDXにおける臨床効果予測性の高さを確認した。特筆すべきは同種同効薬を同時に投与することで、薬剤ごとの感受性の違いを評価することができること、また未承認薬においても薬剤のプロファイルから薬効が期待されても薬効を示す薬剤、示さない薬剤が確認された。 臨床効果とPDXでの結果が一致しない例における原因として、遺伝子解析、薬物血中濃度、薬物腫瘍内濃度、薬物腫瘍内分布解析を実施したが、臨床における治療効果を予測する因子の同定には至らなかった。 以上より、本研究における遺伝子変異を有する非小細胞肺がんのPDXモデル樹立と新薬開発の基盤構築は成功したと考える。現在上記の結果を英語原著論文として取りまとめ、投稿中である。今後これらの開発基盤を活用し、がんの本態解明、薬効評価、そして近年開発が加速している免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法の開発にも活用する。さらに、今回の検討からもPDXと臨床効果は必ずしも一致するわけではなく、この原因として投与量や評価方法に課題がある。今後、PDXを用いた適切な薬剤評価方法の構築も必要と考える。
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