研究実績の概要 |
シークエンス技術の進展によりあらゆるがん種における体細胞バリアントが明らかになっている。しかし、検出された全てのバリアントの機能を実験的に検証することは現実的には不可能であるため、意義が明らかでないバリアントが多数残されているのが現状である。 本研究では、公共データベースThe Cancer Genome Atlas (TCGA)の32のがん種にわたる9,635症例の体細胞バリアントとRNA-seqデータを用いて、Exonic Splicing Enhancer (ESE)の機能を阻害する体細胞バリアント(ESE-disrupting variants)をバイオインフォマティクス的手法により網羅的に特定することを試みた。その結果、646のESE-disrupting variantsが特定された。Permutation testによる検定の結果、本手法の偽陽性率は1%であった。特定したESE-disrupting variantsにはアミノ酸変化を伴わない同義置換が約20%含まれていた。また、既存のバイオインフォマティクスツールでは病原性が低いと判断されるバリアントがスプライシングに影響を与えていることも明らかになった。ESE上のnonsenseバリアントの中には、エクソンスキップによりnonsense mediated mRNA decayを回避しているものが存在することを示唆する結果が得られた。 ゲノム医療においてVariants of Uncertain Significanceと呼ばれる意義不明バリアントの存在が課題の一つであるが、本研究はスプライシング制御という観点から体細胞バリアントの意義を明らかにすることができたため、ゲノム医療を推進する上で大きな意義を有すると考えられる。
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