研究課題
肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor: HGF)とその受容体METは、がんの増殖や浸潤・転移、薬剤耐性の獲得等、悪性形質や予後不良に関与するシグナル経路である。そのため、数多くの治療薬開発が試みられているが、HGF-METを対象にした特異的な治療薬は上市されていない。その理由として、臨床試験時に適切な患者選択が行われず、十分に治療効果を検証できないことが原因であると考えられている。本課題では、患者選択における適切なクライテリアの提供と、その後の臨床の現場で活用できる診断法の確立を目指し、環状ペプチドを分子プローブとするHGF-METシグナルの活性化状態を反映したイメージング法の開発を行っている。本年度は、HGF-MET系に依存した悪性腫瘍のイメージングを行うため、動物実験モデルの構築と培養細胞を用いたイメージングプローブの機能評価を行った。血行性肺転移モデルで汎用的に使用される細胞株B16F10細胞に対し、CRISPR-Cas9システムを用いてMET遺伝子のノックアウト細胞を作製した。この細胞をC57BL6マウスに尾静脈経由で投与すると、親株と比較して顕著に肺への転移能が低下した。また、同細胞にMET遺伝子を再発現させることで、転移能が回復することを確認し、MET依存的な転移モデルの構築に成功した。肺がん細胞株PC-9細胞を用いて、MET遺伝子欠損細胞および過剰発現細胞を作製し、ペプチドプローブの細胞膜への結合試験を行った。実験の結果、METの発現量に依存したプローブの結合を確認することができた。今後、METのキナーゼ活性を阻害剤する低分子化合物を用いて、活性化状態とプローブ動態の相関について評価を行う予定である。
3: やや遅れている
本年度に動物実験モデルの構築は達成した。一方で、MET結合性プローブの培養細胞を用いた機能評価では、活性化状態を反映した取り込みについては、未だ確認できておらず、来年度以降に実施する予定である。プローブとして十分な機能が確認できなかった場合には、細胞内に取り込まれた後に速やかに解離・分解するようなプローブのデザインおよび評価系について改めて検討する。
来年度以降の課題は、①適切な評価系の構築と②プローブの再設計が挙げられる。①に関しては、METの細胞内への取り込み(エンドサイトーシス)が増加する遺伝子変異が報告されている。MET遺伝子欠損細胞に、この変異を持つMETを再構成した細胞株を作製し、評価の陽性対照として使用することを計画している。その他、共培養法や浮遊培養法など、細胞培養条件の影響についても並行して検討していく予定である。②の課題に関しては、本年度に使用したMET結合性ペプチド以外に、これまでに2つの異なるペプチド配列を同定している。それらを用いて、同様の検討を行うことを計画している。
実験計画がやや遅延したことに起因する。培養細胞を使用したプローブ評価系の構築を、来年度以降引き続き実施するため、細胞培養に必要な液体培地等試薬の購入費として、来年度に使用する予定。
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https://www.k-matsumoto-kanazawa-u.org/