本研究は、がんゲノム医療の臨床実装に先駆けてがん腫横断的ドライバー遺伝子のNTRK融合遺伝子に着目した。NTRK融合遺伝子陽性がんの特徴は、非常に希少ながん腫(乳腺分泌がんや乳児線維肉腫など)では90%以上と高頻度に陽性になるが、肺がんや大腸がんなど一般的ながん腫における陽性頻度は僅か1%程度である。さらに年齢を問わず、成人と幼児で陽性になることが挙げられる。また、いかなる腫においてもその克服が実地臨床において重要な課題である中枢神経病変に重点を置いた。
まずNTRK1融合遺伝子陽性の大腸がん細胞株を用いてマウス脳転移模倣モデルを作成した。次に、このドライバー変異に奏効するTRK阻害薬エヌトレクチニブの耐性を中枢神経内で誘導し、耐性脳腫瘍から樹立した細胞株を用い耐性機序と耐性克服薬を同定した。その耐性機序はNTRK1融合遺伝子内に認められた中等度耐性のG667C変異であった。本研究の過程で、エヌトレクチニブの投与量を増やし同様の実験を行うと、高度耐性を示すG595R変異を有する細胞株の樹立にも成功した。
現在は高度耐性G595Rと中等度耐性G667Cの両者に有効な薬剤の開発を目指している。実地臨床では既に2020年1月時点でエヌトレクチニブが4例で使用され3例で奏効しており、今後、本研究の成果がタイムリーに活用される可能性がある。
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