本研究では、ナチュラルキラー細胞 (NK細胞) ががん細胞を殺傷する際に活性化が認められるERKについて、活性化メカニズムの解明と生体内でがん細胞を殺傷 する際のERK活性の動態を解明することを目的としている。 昨年度までに、超高感度発光イメージングと生体二光子顕微鏡法を用いて、NK細胞が肺に転移するがん細胞を排除する様子を安定的に観察するイメージング系を確立し 、NK細胞ががん細胞を殺傷する際のERK活性動態を解明した。その一連の実験において、高いがん細胞殺傷能をもつ肺毛細血管内を這う crawling NK細胞の存在を発見したが、このcrawling NK細胞が転移抑制にどれだけ寄与しているのかは未だ明らかになっていない。 そこで、血管内皮細胞との相互作用がNK細胞の殺傷機能獲得に重要であると考え、crawling NK細胞において内皮細胞との接着に必要な分子の検討を行った。肺生体イメージング下で様々な接着分子の阻害抗体を投与したところ、抗インテグリンLFA-1抗体がNK細胞の内皮への接着を抑制することを明らかにした。そこでLFA-1依存的内皮上を這うcrawling NK細胞ががん転移に及ぼす影響を調べたところ、抗インテグリンLFA-1抗体を投与したマウスは肺転移が著名に増加することがわかった。本研究で用いたがん細胞株B16F10はLFA-1のリガンドであるICAMを発現していないことから、NK細胞とがん細胞の相互作用に抗LFA-1抗体は影響しない。これらのことから、NK細胞は肺毛細血管内をパトロールする際、LFA-1依存的に内皮細胞に接着し、crawlingすることによって細胞傷害活性を高め、転移がん細胞の排除に極めて重要な役割をになっていることが明らかとなった。
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