研究課題
本研究課題は、放射線とdopamine receptor標的薬の作用機構が異なる治療を行い、治療耐性を克服し従来の治療法に比べ有意に抗腫瘍効果ならびに転移・骨吸収抑制効果がみられるか否かを問うことを目的としている。本年度は、細胞実験を中心に放射線と薬剤の併用による抗腫瘍効果ならびに転移抑制効果を検討した。細胞は、ヒト乳癌細胞株MDAMB-231(トリプルネガティブ型)およびMCF7(内分泌感受性型)の2種類を用いた。薬剤は、dopamine receptor D1 agonistであるA77636、既に国内でパーキンソン病治療薬として用いられているアドロゴリド塩酸塩の2種類を用いた。放射線には、X線、炭素イオン線の2種を用いた。照射3時間前に薬剤を添加し、放射線照射後の細胞生残率の他、がん転移の指標となる細胞接着能、遊走能、浸潤能を評価した。放射線と薬剤を併用すると、細胞生残率が、各々単独で治療する群と比較して有意に低下した。つまり、放射線とdopamine receptor標的薬を併用することで、抗腫瘍効果が高まることが示唆された。次に、細胞接着能、遊走能、浸潤能は、亜致死線量のX線照射により亢進する結果が得られた。しかし、同時にdopamine receptor標的薬を併用すると、これらの能力が抑制される結果を得た。つまり、放射線治療で誘発されるがん転移に関わる因子の活性を抑え、細胞レベルでのがん転移能を抑制したことが示唆された。一方、炭素イオン線は、亜致死線量の照射により、細胞接着能、遊走能、浸潤能が、亢進することはなかった。薬剤と併用すると、これらの能力がさらに抑制され、炭素イオン線とdopamine receptor標的薬の転移能抑制効果に相加効果が認められた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は、放射線とdopamine receptor標的薬の作用機構が異なる治療を行い、治療耐性を克服し従来の治療法に比べ有意に抗腫瘍効果ならびに転移・骨吸収抑制効果がみられるか否かを問うことを目的としていた。仮説の通り、乳がん細胞2種に対し、放射線とdopamine receptor標的薬の併用により、各々の単独治療に比べて、抗腫瘍効果、転移能抑制効果ともに増強する結果が得られた。よって、当初の計画通りに研究が遂行されたと考えられる。
細胞実験において、仮説通り、乳がん細胞の抗腫瘍効果、転移能抑制効果を放射線とdopamine receptor標的薬の併用により達成した。この結果を受けて、本格的に動物実験に移行することができると考えられる。今後の方策としては、マウスの骨転移モデルを作成し、放射線と薬剤の併用により、細胞実験同様の成果が得られるか検証する。同時に、分子メカニズムも明らかにすることで、骨転移性乳がんに対する化学放射線療法を確立するための基礎的データを提供するという研究計画を完遂させる。
細胞実験と分子機能解析に初年度は時間を費やした為、動物実験のための実験動物購入費を予定より使用しなかった為、次年度に繰り越すこととした。2年目は、動物実験を主体に初年度に得られた成果を動物レベルで再現できるか否か検討する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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