研究課題/領域番号 |
18K15319
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
船越 洋平 神戸大学, 医学部附属病院, 特定助教 (50566966)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん免疫 / PDXマウスモデル / MSI-H大腸癌 / Lynch症候群 / メチレーション |
研究実績の概要 |
本年度は昨年作成した2例のMSI-H大腸がんPDXモデル(PDX1及びPDX2)の解析を重点的に行った。
PDX1: 患者(Pt1)のがん組織とPDX1腫瘍をHE染色にて比較したところ、病理所見はともに高分化型腺癌で類似していた。分子生物学的な背景を確認するために、MSI-Hの原因となるミスマッチ修復(MMR)遺伝子の欠損について、免疫組織学的に解析したところ、Pt1腫瘍で見られたMLH1蛋白とPMS2蛋白の欠損が、PDX1腫瘍でも同様に欠損しており、遺伝学的背景が維持されていた。PDX1腫瘍のMSIも検査されたが、MSI-Hであることを確認している。Pt1はアムステルダム基準Ⅱ(AMS)を満たしLynch症候群であることが考えられ、同意の上Pt1の末梢血より体細胞変異の解析(MMR)を行った。免疫染色の結果に一致して、MLH1に変異を認めLynch症候群を診断した。この変異はPDX1腫瘍にも同様に認められた。
PDX2: 患者(Pt2)のがん組織とPDX2腫瘍のHE染色での比較で、大変興味深いことにPt2の組織は高分化型腺癌であるにも関わらず、PDX2腫瘍は構造を持たない低分化型の組織であった。さらに驚くべきことに、MSI-Hの原因となるMMR遺伝子の欠損について解析したところ、Pt2腫瘍ではMLH1蛋白とPMS2蛋白の欠損が見られたが、PDX2腫瘍では欠損を認めなかった。これと一致してPDX2腫瘍はMSSであった。Pt2はAMSを満たさず、Pt2腫瘍はMLH1のプロモーター領域のメチル化によりMLH1蛋白が喪失していた。一方、PDX2腫瘍のMLH1プロモーター領域にメチル化は認めず、Pt2腫瘍はPDX作成の仮定で脱メチル化されていた。これがPDX2腫瘍がMSSとなっている原因であると考える。MSI-H PDXモデルの作成には、MMRの体細胞変異をもつ腫瘍が必要と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今まで、①MSI-H大腸がんよりPDXマウスモデルの作製、②PDX腫瘍の解析、③免疫ヒト化を行ってきた。①にあたっては、神戸大学医学部 附属病院にて大腸がん手術予定の患者より、同意を得て術前にMSIの検査を施行した。昨年はMSIがhighであった2名の手術検体よりPDXモデルの作製を試み、2例とも生着を認めた(PDX1, PDX2)。本年はそれぞれ6継代、4継代まで継代しPDX腫瘍の保存を行ってる。本年はさらに2例のMSI-H腫瘍よりPDXの作成を行っているが、以前として生着していない。大腸癌のPDX樹立の成功率は70%程度でありすべての腫瘍が生着するわけではない。特にMSI-H腫瘍は生着しにくい可能性もあり、進捗はやや遅れている。
加えて、前項目に記載したように樹立した2つのモデルのうち、MLH1のプロモーター領域のメチル化によってMSI-HとなっているPt2においては、NSGマウスに移植することで、欠失したMMRが回復し、PDX2腫瘍はMSS腫瘍に変化していた。これは大変興味深い現象であり、我々は一部予定を変更し、MSI-H腫瘍がMSS腫瘍に変化したメカニズムの解析を行った。その結果Pt2腫瘍ではMLH1プロモーター領域の脱メチル化によりMMR蛋白が回復しMSSに変化することを見出した。これは、プロモーター領域のメチル化によってMSI-Hとなっている散発性のMSI-H大腸癌は、MSI-H PDXの作成に不向きであることを示唆しており大変意義深い研究となった。しかし上記の研究は本来予定していた研究内容(MSI-H PDX腫瘍による薬効評価)とは異なることにより、全体の進捗状況としてはやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
上記の①~③について、①においては今後も当院で大腸がん手術予定患者のMSI検査を行い、新たなMSI-H大腸がんPDXモデルの作製を試みる。MSS大腸がんPDXモデルにおいても、コントロールモデルとして現在1モデル樹立済みである。これもさらに数モデル追加を予定している。②においては現在樹立したPDX1及びPDX2においては解析が概ね完了しているが、脱メチル化の原因について詳細は明らかではなく、このメカニズムについての研究は継続していく。また、今後新たに作成されたモデルにおいても同様の解析を行い、MSI-H腫瘍から作成されたPDX腫瘍がMSI-Hを維持していることを確認することが必要であると考えている。本年度は特に③を重点的に研究していく、PDX1を用いてヒト免疫細胞がPDX腫瘍に浸潤することを確認してるが、その数は少数に留まる。今後、よりヒト免疫細胞を効率よくPDX腫瘍に浸潤させる方法についても検討を行っていく。最後に、作製した免疫ヒト化MSI-PDXマウスモデルを使用し、研究計画に記載した免疫チェックポイント阻害薬の薬効評価を行っていく。
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