画像や音などの刺激が連続的に提示される中から、後から参照する可能性の高い特定の物だけを記憶したい。刺激の並べ順の工夫によって、覚えやすいもの・覚えにくいものを制御することはできないだろうか?先行研究から、刺激提示の1-0.8秒前のシータ波(4-7 Hz)の振幅と、刺激提示後のアルファー波とベータ波(8-30 Hz)の振幅・位相の変化が記憶しやすさに影響を与えることが知られている。本研究では、刺激の並べ順によって学習効率を上げられるかを検証するため、記憶する(符号化)時の刺激提示順によって生じる神経応答と、記憶テスト(1つ刺激が提示されるたびに聞き覚えがあるかを解答する再認)の成績の関係を検証する。 これまでに、20名の脳波計測実験を実施し、脳波データおよび記憶課題時の行動データの解析を進めてきた。特に脳波データの解析では、筋電由来と思われる高周波ノイズの除去を加えることにより、より詳細な脳活動を観察できる状況となっていた。本年度は、既存の解析手法を適応した結果を見た。しかしながら、既存の、あらかじめ周波数帯域を限定して解析する手法では、個人ごとに持つ周波数ピークに関する情報などをうまく活用できないことがわかった。そのため、新たな解析手法の開発に取り組んだ。解析手法の妥当性を、既存のオープンデータベースから得た脳波データに適用し、性能評価を実施した。また、国内研究会で口頭発表により成果を報告している。 本年度は、解析手法の開発を継続し、開発手法の検証のために、より刺激タイミングが明瞭である経頭蓋磁気刺激(TMS)中の脳波データの解析を進めた。検証の過程で、データセットとして整理が進んだため、検証に用いたデータをオープンデータセットとして公開し、データディスクリプタを国際学術雑誌に投稿した。 記憶課題を取り組む20名の脳波計測データの解析がまとまってきており、論文を執筆中である。
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