研究課題/領域番号 |
18K15346
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
渡邊 塁 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 客員研究員 (20793326)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共感 / 経験 / 他者理解 / ミラーニューロンシステム / 機能的MRI |
研究実績の概要 |
本年度はまず、本研究課題に関する研究成果が国際学術雑誌であるNeuroImage: Clinicalに掲載された。具体的には、脳卒中リハビリの専門家である理学療法士が脳卒中片麻痺患者の手の動きを観察した際、その困難性への主観的な共感度と共感や他者理解に関わる脳領域の活動が、一般健常者よりも高いことを報告した。これにより、直接経験が出来ない身体動作であっても、そうした身体に触れたり観察した経験があることで、その困難性への理解や共感が向上することが示された。 そして本年度はそれに続く研究である、一般健常者でも麻痺手動作を観察する視点により、その困難性への理解や共感度が向上するか検討した実験の実施から解析が完了した。本実験では、1人称視点(観察者側から麻痺手が提示され、自分の手のように見える)から麻痺動作を観察すれば、3人称視点(観察者の対面側から麻痺手が提示され、他者の手のように見える)での観察よりも、その動きへの主観的な理解や共感度が向上し、それを支える共感関連の脳活動が増大することが示された。特に、他者の苦痛へ敏感な気質を持つ人ほど、麻痺患者が手を動かす際に感じている、「ぎこちなさ」、「いらだち」「思ったように力の調整が出来ない」といった微妙な感覚への共感が起こりやすく、それに伴い身体感覚に関連する脳活動が増大していた。現在、本実験結果を国際学術雑誌に投稿し、査読を受けている状況である。 現在は、麻痺手動作を模倣することで、麻痺動作の困難性への共感度が向上するか、行動実験の観点から検討を続けている。現在、模倣群とコントロールである観察群、それぞれ8例ずつデータを測定した。途中の結果として、身体面よりも心理面への共感度が、模倣の経験をすることで向上する傾向にあることが認められている。今後MRI実験へ移行する予定だが、所属大学のMRIの故障と新型コロナウィルス感染拡大により、実施が困難にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで一定の成果は研究計画どおりに得られている。本年度は当該究課題に関する実験結果が、国際学術雑誌に掲載された。また現在、その後の実験の成果も、国際学術雑誌に投稿しており査読中にある。そして、現在は研究計画に沿った行動実験がほぼ終了し、予想に沿った一定の結果が得られ、MRI実験へ移行する予定であった。しかし、所属する東京都立大学のMRI装置の故障と新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、実験を中断せざるをえない状況にある。実験が可能になり次第再開予定だが、残りの研究期間を鑑みて、ある程度実験計画を変更する必要性がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在は東京都立大学のMRI装置は現状復帰しているので、新型コロナウィルスへの警戒が解除され、実験実施が出来るようになり次第すみやかにMRI実験を再開する。しかし、残された期間等を鑑みると、実験デザインの変更の必要性があると判断する。 当初は群間比較での実験デザインでのMRI実験であったが、残された研究期間、実験再開時期が未定であることをふまえ、被験者内比較のデザインに変更する。具体的には、模倣-観察要因×麻痺-非麻痺要因の2要因2水準のデザインとする。模倣条件では麻痺手もしくは非麻痺手の動きを模倣した後にじ映像を観察して、その直後に主観的共感度を測定する。観察条件では、シンプルに観察を2回した後に、主観的共感度を測定する。本実験はMRI実験を予定しているが、まずは行動実験にて一定の傾向を確認してから、速やかにMRI実験へ移行することを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の実験計画において、実験謝礼金が想定よりやや低かった。理由として、所属大学のMRI設備の故障、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、実験実施に支障が出てしまった。次年度は、本年度実施予定だった実験を年度初めに実施することで、助成金を的確に使用する。
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