研究課題/領域番号 |
18K15350
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
中森 智啓 北里大学, 一般教育部, 助教 (50725348)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 刷込み行動 / 臨界期の制御 / 神経可塑性 / 学習 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、幼若期の学習行動の1つである、鳥類の刷込み行動の臨界期の制御機構における、ナトリウム利尿ペプチドファミリー(NPs)及びその受容体の役割を解明し、幼若期における高い神経可塑性の分子メカニズムの理解を深めることを目的としている。当該年度においては、NPsに類似する配列を持ち、NPs受容体の一部に受容されることが分かっている、ペプチドA(名称非公表)について、幼若期の神経可塑席における役割を調べた。ペプチドAはニワトリ雛の脳においては、刷込みの成立に重要である、終脳のvisual Wulst(VW)と呼ばれる領域に発現しており、同領域にその受容体を発現している細胞も存在していた。また、ペプチドAは、刷込みの臨界期中である孵化後1日目よりも臨界期終了以降である7日目における発現量が高いことが分かった。また、刷込み学習を行った個体では、ペプチドAの発現量が学習の数時間後から上昇していた。このことから、ペプチドAは神経の可塑性を低下させ、臨界期の終了を調節していると考えられた。そこで、胚時期のヒヨコ脳のスライス培養系を用いて、ペプチドAの付加に対する神経細胞の形態変化への影響を調べたところ、ペプチドAは樹状突起の伸長を抑制する働きがあることが分かった。このことから、孵化後に発現量が上昇するペプチドAは、刷込みの成立に重要な神経細胞の樹状突起の伸長を抑制することで、神経の可塑性を低下させ、臨界期を終了へと導いていると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の主目的は、①NPsや受容体の脳内における詳細な発現部位や細胞の種類の特定、②刷込みの成立や記憶の維持におけるNPsの役割の解明、③NPsの発現量の変異が神経細胞の形態や機能に与える影響の解析であったが、当該年度までに、①及び③に関する解析は遂行できた。②に関しても、すでに受容体のノックダウンベクターを作成しており、ベクターを導入した個体もしくは組織において、NPsの役割の解析を進めている。これらのことから、本研究課題は当初の計画よりも進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度における研究から、NPsに類似する配列を持つペプチドAがNPsの受容体の1種に受容されることで、脳神経細胞の樹状突起の伸長が抑制されることが分かった。ペプチドAは刷込み行動の臨界期の終了時期において発現が上昇することが分かっており、神経細胞の形態の変化を起こしにくくすることで、可塑性を低下させ臨界期を終了させていると考えられる。今後は、ペプチドAの発現が個体における刷込み行動の臨界期へ与える影響を調べる必要があり、ペプチドAの脳内急性投与や、受容体及びペプチドAのRNAiの導入によって、刷込みの効率や臨界期の維持にどのような影響が出るのかを調べる予定である。また、受容体にペプチドAが結合した際に起こる細胞内シグナリングを調べることも重要である。RNAseq等を用い、ペプチドAによって引き起こされる細胞内の遺伝子発現変化について解析を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度にRNAseqの解析依頼を行う予定であり、約30万円程度と見込まれる予算を次年度に使用する予定である。
|