研究課題
これまでに前頭眼窩野の関与が示唆されている柔軟な行動選択を実現するための様々な機能が、異なる皮質下領域との相互作用に基づいて実現されているという仮説の下、当該年度は、前頭眼窩野から線条体、および視床への投射がそれぞれの機能においてどのような役割を果たしているのかを明らかにするための実験を行った。具体的には、前頭眼窩野に抑制性のDREADDであるhM4Diが発現した個体において、投射先である線条体、および視床にDREADDのアゴニストであるDCZを直接注入することにより、注入を行った領域へと伸びる神経経路のみの機能調節を行いながら、サルに柔軟な行動選択を要求する複数の行動課題を遂行させた。その結果、前頭眼窩野から線条体へと至る経路の抑制を行った際には、報酬の価値を逐次アップデートすることを要求される課題の遂行に障害が生じた。また、前頭眼窩野から視床へと至る経路の抑制を行った際には、ルールに基づく行動の切り替えを要求される課題の遂行に障害が生じた。これらの結果は、前頭眼窩野からそれぞれの皮質下領域へと至る経路が、柔軟な行動選択をするうえでそれぞれ異なる役割を果たしていることを示唆する結果である。また、本研究を遂行するうえで用いた、DREADDを活用した経路選択的な機能阻害法は、霊長類においてこれまで適用例がなく、本研究が世界に先駆けて成功させたものである。その点においても、当該年度は重要な進展があったと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績にも示した通り、当該年度において、技術的に大幅なブレイクスルーを成し遂げたと考えている。これまで霊長類モデル動物においては、経路レベルでの神経機能調節技術の適用はごく限られたものであり、さまざまな研究に応用可能である当技術の確立は、今後の霊長類研究において重要な役割を果たすことが期待される。
今後は計画書の通り、DREADDを用いた神経機能調節と電気生理学的手法による神経活動の計測を組み合わせた手法により、それぞれの経路においてどのような情報処理が為されているのかを明らかにする実験を行う予定である。
研究が当初の予定以上に順調に進行したため、動物の消耗がなく、動物の購入に使用する予定だった分を次年度使用の消耗品へと充てる予定である。
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