本研究は統合失調症発症時の社会ストレス脆弱性の低下に対してカルボニルストレスが与える影響について、マウスの社会的敗北ストレス負荷モデル、思春期人口集団コホート疫学データを用いることで明らかにすることを目的に実施した。 計画3年目となる令和2年度は、これまでに検討したマウスモデルから得られた結果に関連し、ヒトのサンプル・疫学データを用いた実証的な解析を主として行った。 まず、健常成人の血液サンプルを用いてRCOsを測定し、その血中濃度と一般的精神健康評価尺度(GHQ-28)の関連を検討し、不安尺度とメチルグリオキサール(MGO)が関連することを明らかにした。また、統合失調症患者と健常者の比較においてMGOを解毒代謝するタンパク質であるグリオキサラーゼ1の酵素活性に差があり、その酵素活性は疾患群において不安尺度と関連するということを明らかにした。 次に、思春期人口集団コホート疫学データから、思春期の低筋力はその後のカルボニルストレス上昇を生じさせること、さらにカルボニルストレスは12歳時点の低筋力と14歳時点の思考障害の縦断的関連を媒介している可能性を有することを明らかにした。 これらのことから、AGEsとその前駆物質のRCOsは、精神疾患を生じるリスク因子の一端を担っている可能性が高いと考えられる。 本研究から、思春期の低筋力はAGEsを上昇させ、それがその後の精神疾患発症と関連する可能性が示唆される。すなわち思春期の運動などを介したAGEsを上昇させない取り組みは、その後の精神疾患の予防に寄与する可能性があると言え、今後、筋力・AGEs・精神行動の関係性についてモデル動物を用い、より詳細に検討を行う必要があると考えられる。
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