研究課題/領域番号 |
18K15359
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樽谷 愛理 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (10815187)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | プリオン様伝播 / 神経変性疾患 / シヌクレイノパチー / プリオン / 株(strain) |
研究実績の概要 |
プリオン様異常タンパク質病変の脳内伝播は、アルツハイマー病、パーキンソン病などの主要な神経変性疾患の発症、進行の根底にあるメカニズムと考えられ、その病変拡大のメカニズムの解明は神経変性疾患の予防・治療法の確立につながると考えられる。本研究は、疾患の臨床症状及び病態進行の多様性が生じる要因になると考えられているαシヌクレイン(αS)の”strain”(株)に関してその構造的、生化学的性質とシード能の関係性について明らかにすることを目的としている。 今年度は、αシヌクレイン(αS)病変を病理学的特徴とするレビー小体型認知症(DLB)及び多系統萎縮症(MSA)患者脳由来の異常型αSのシード活性について、合成αS線維のシード活性とともにヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞及び野生型マウスを用いて検討した。その結果、培養細胞において、MSA患者脳由来の異常型αSはDLB患者脳由来の異常型αSに比べて高いシード活性を示した。また100pg/mL以上の合成αS線維がシード依存的なαS凝集を引き起こし、MSA患者脳由来の異常型αSのシード活性は合成線維と同等、もしくはそれ以上であった。野生型マウスにおいては、0.1ug以上の合成αS線維がシード依存的なリン酸化αS病変を引き起こし、MSA患者脳由来シード接種マウスにおいても接種3ヶ月後にレビー様病理が観察された。一方、DLB患者脳由来シード接種マウスでは、接種9ヶ月後にレビー様病理が観察され、野生型マウス脳においてもDLB及びMSA患者脳シードの活性の違いがみられた。さらにこれまでに報告されている家族性パーキンソン病の原因となる変異型αSの合成線維のシード活性を培養細胞において検討すると、変異によって異なるシード活性を示すことも明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、αシヌクレイノパチー患者脳由来異常型αS及び合成αS線維のシード活性について培養細胞、野生型マウスを用いて検討した。これらの検討からプリオン様伝播実験モデルにおいてシード依存的なαS凝集を引き起こすαSシードの最小量が明らかとなり、得られた結果は異常型αSシードの不活性化方法の評価と共に、Acta Neuropathilogica Communication誌に発表した。よって本研究の基礎となるαシヌクレイノパチー患者脳由来シード及び合成線維の活性の違いについての知見が得られ、培養細胞及び野生型マウスのプリオン様伝播モデルを用いたαSシード活性の評価系を確立したことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、αシヌクレイノパチー患者脳由来異常型αS及び野生型、変異型合成αS線維のシード活性についての知見を得た。よって今後は構造的、生化学的に異なる異常αシヌクレインがシード能及び断片化に与える影響について様々な細胞種を用いて検討する。患者脳由来の異常型αS及び野生型、変異型合成線維をシードとして初代培養神経細胞及びグリア細胞内で異常型αSを増幅し、そのシード活性を試験管及び培養細胞を用いたプリオン様伝播モデルを用いて評価する。また神経細胞とグリア細胞において増幅されるシード活性の違いを比較することで、異なる細胞環境が異なる”strain”を生み出す可能性を検討する。さらにMSA及びDLB患者脳に蓄積している異常型αSに対して、トリプシンやプロテイナーゼKなどによるプロテアーゼ処理を行い、プロテアーゼに対する抵抗性及び耐性バンドの差異についての検討を行い、プロテアーゼ処理後の異常型αSのシード活性を培養細胞を用いたプリオン様伝播モデルによって調べる。
|