本研究は神経変性疾患患者脳から抽出した異常型タンパク質の構造的・生化学的性質を明らかにし、その伝播能との関係性をを明らかにすることを目的とした。αシヌクレインが蓄積する疾患群であるレビー小体型認知症(DLB)及び多系統萎縮症(MSA)患者脳から界面活性剤不溶性を抽出し、そのプリオン様性質を調べた。電子顕微鏡観察により両者の異常型αシヌクレインは異なる線維構造を呈すること、また不溶性画分のイムノブロットにより異なる高分子バンドパターンを示すことが明らかになった。さらにこれらの患者脳シードをSH-SY5Y細胞に導入すると、両者の伝播能は全く異なり、MSA由来シード が 高い活性を示すのに対し、DLB由来シードは非常に低い活性のみを示した。MSA由来シードの希釈系列を同細胞に導入し、シード依存的な凝集に必要な最低量を調べた結果、100 pg/mLという低濃度でも伝播能を示すことが明らかとなった。また、両シードの野生型マウス脳への接種を行うと、培養細胞と同様の伝播能の違いが観察された。DLB由来シード を接種したマウス脳では、接種後9ヶ月で初期病変と思われるレビーニューライト様病理が観察されたのに対し、MSA由来シードを接種したマウスでは、接種後3ヶ月で神経細胞におけるリン酸化αシヌクレインの蓄積が観察された。興味深いことにMSA由来シード を接種したにも関わらず、その特徴病変であるオリゴデンドロサイト内における病変は観察されなかった。以上の結果から、シヌクレイノパチーにおける異なるプリオン様性質が明らかとなり、αシヌクレインの”strains”の存在が示唆された。
|