昨年度は、神経回路修復能が高い新生児と神経回路修復能が低い成体で延髄錐体切断後の頸髄での初期の反応の違いを調べるため、切断後3日目に頸髄からRNAを抽出し、RNA-seqを行った。結果、Ccl6とCd52が成体切断群での発現量が成体対照群及び新生児切断群と比べて2倍以上高いことを発見し、成体では新生児より炎症反応が強いことが示唆された。 今年度は、上記炎症関連遺伝子がどの細胞で発現するか調べるため、多重染色を行った。Ly86等の成体切断群選択的に発現上昇する遺伝子は除神経側の皮質脊髄路のミクログリアで発現していた。また、除神経側の皮質脊髄路へのミクログリアの集簇は新生児では見られなかった。以上より、成体では新生児と比べてミクログリアが強く活性化されることが神経回路修復能の差を規定する要因の一つである可能性がある。上記結果をBMC Genomics誌に投稿し、掲載された。 一方、上記RNA-seq解析で発現量に最も差があったのは、Etnpplであったため、以後はEtnpplの解析を進めた。Etnpplは脂質代謝に関わる酵素として知られているが、詳細な解析はほとんどなされていない。まずはEtnpplがどの細胞で発現するか調べた。Etnpplはシングルセル解析でアストロサイトでの発現が示唆されていたため、MACSでアストロサイトを選別し、Etnpplの発現量を調べた。Etnpplは成体アストロサイトに特異的に発現しており、成体非アストロサイトや新生児アストロサイトにはほとんど発現していなかった。同様の結果はRNA scopeでも確認された。次に、ETNPPLの細胞内局在を調べるため、ポリクローナル抗体を受託作製し、免疫組織化学を行った。その結果、ETNPPLは核局在することが分かり、代謝酵素以外の役割が示唆された。
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