研究課題
孤発性封入体筋炎(sIBM)は高齢発症の難治性炎症性筋疾患である。病態には不明な点が多く、有効な治療法は未だ存在しない。患者血清中には骨格筋を標的とする自己抗体「抗cN1A抗体」が存在し、骨格筋にはリンパ球浸潤を認めることから自己免疫機序が病態に関与する。一方で筋形質内には異常蛋白凝集を認め、蛋白分解機構の障害も関与している。この自己免疫機序と蛋白凝集のどちらが一次的であるか、双方の相互作用が存在するかについては未解明である。本研究ではcN1Aに対する自己免疫応答が筋毒性を有するか、また蛋白分解機構に影響するかを明らかにするために、cN1Aペプチド能動免疫マウスを開発し、疾患特異的治療法の開発を目指す。既報告論文のエピトープ候補部位を参考に合成した3種類のマウスcN1Aペプチドを、完全アジュバンド、百日咳菌毒素とともに8-10 週齢の雌マウスの足底および尾部に投与した(1 ペプチドにつき、n= 5 匹)。コントロールではペプチドを含まないアジュバンドのみを投与した(n= 5 匹)。cN1Aペプチド免疫は1週間ごとに4週間反復投与した。cN1Aペプチドを接種されたすべてのマウスにおいて、対応する抗cN1A抗体が血清中に検出された。行動解析として体重推移、 トレッドミルテストおよび握力テストにより運動機能を経時的に評価したところ、cN1Aペプチドを接種した1群で体重が減少し、2群でトレッドミルテストによる運動機能の低下が見られた。筋病理学的評価では、cN1Aペプチド接種群で内在核線維が増加し、CD8陽性リンパ球の浸潤がみられ、p62やLC3-IIの発現が亢進していた。cN1Aペプチド能動免疫マウスは、sIBMに類似の臨床病理学的な表現型を模倣した。本マウスモデルは、sIBMの病態を解明し新規の治療戦略を探索するための有用なツールとなることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
申請者は先行研究において、抗cN1A抗体の骨格筋に対する病原性を検討するためにin vitroおよびin vivoでの抗体移入実験を行い、ヒト横紋筋肉腫細胞(RD細胞)およびC57BL6マウス骨格筋の双方で選択的オートファジーに関与するp62の筋形質内異常凝集を認めることを明らかにし、本抗体並びに骨格筋への自己免疫応答が直接的に骨格筋の蛋白分解機構に影響を及ぼす可能性を初めて示した(Tawara et al.Ann Neurol. 2017)。加えてcN1Aペプチド能動免疫マウスは、sIBMに類似の臨床病理学的な表現型を模倣することから、抗cN1A抗体の病因的意義がより明確になったと考えられる。これまでcN1A蛋白に対する自己免疫応答に着目したsIBMの病態研究に関する報告はこれまでに国内、国外ともになく、本研究の重要性が再確認されたものと考える。
我々は、抗cN1A抗体のみならず、cN1A抗原特異的リンパ球がsIBMの病態において重要な役割を果たす可能性を考えている。抗原特異的リンパ球が筋毒性や蛋白分解機構への直接的な病原性を有するかを解析することを目的に、リンパ球移入検証を行う。cN1A蛋白能動免疫マウスの脾臓からリンパ球を採取し、免疫したcN1Aペプチドと混合することでcN1A抗原特異的リンパ球を活性化させる。その後野生型マウスにリンパ球移入を行い、行動学的および血清学的、筋病理学的解析を行う。またリンパ球と抽出した抗cN1A抗体を単独で野生型マウスに移入し、表現型や筋病理の違いについても検証することで自己抗体の病原性、リンパ球の病原性について明らかにする。さらにcN1A蛋白能動免疫マウスについて、封入体筋炎類似の自己免疫応答の誘導と蛋白分解機構の障害が再現される場合には、本マウスを用いて免疫治療と蛋白分解を促進する治療を組み合わせたCombination therapy(例:大量免疫グロブリン療法+ラパマイシン投与など)を検討する。
次年度に大量にペプチドを能動免疫したマウスの実験が必要であり、前年度の経費を繰り越す必要があったため。
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