研究課題/領域番号 |
18K15376
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
森 聡生 順天堂大学, 医学部, 助教 (60782878)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / リン脂質 / PLA2G6 / 脂質代謝破綻 / 疾患修飾治療 / α-シヌクレイン / 神経変性 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
パーキンソン病の原因遺伝子であるPLA2G6はリン脂質を基質とする酵素をコードし,リン脂質の恒常性維持に関与することが知れている.しかしながら,リン脂質とパーキンソン病の関連については不明であった. 我々はこのPLA2G6に着目し,ノックアウトをショウジョウバエを作成し解析を行った.このノックアウトショウジョウバエでは加齢依存性に運動機能の低下のみならず,睡眠障害などの非運動症状を認めた.さらには,ドパミン神経を含む神経細胞脱落を見出した.次にリン脂質の異常の有無をみるために,脳をESI-MS(エレクトロスプレー化質量分析器)で解析し,リン脂質のアシル基の短鎖化を見出した.つまりは,PLA2G6はリン脂質のアシル基である脂肪酸のうちでC14やC16の脂肪酸を基質としていることが明らかなになった.このアシル基の短鎖化自体が直接神経変性を起こすかをみるために,ショウジョウバエのリノール酸(C18:2)を餌に添加することにより,脳リン脂質を正常化することに成功し,神経変性阻止および表現型の改善を得ることができた. パーキンソン病は,タンパク質であるα-シヌクレインの異常凝集が病理的な指標になり,病態に深く関わっている.そこで,このノックアウトショウジョウバエにα-シヌクレインを過剰発現させたところ,野生型に比べてα-シヌクレインの凝集傾向を見出した.人工的な脂質膜の実験系(リポソームアッセイ)では,ノックアウトショウジョウバエと同様のリン脂質組成のリポソームではα-シヌクレインのリン脂質膜への結合能低下を認め,リン脂質の短鎖化がα-シヌクレインの膜への結合能低下を起こし,凝集過程のトリガーになると考えられた.このことからリン脂質の恒常性はパーキンソン病の新たな治療ターゲットになると考えられる.この成果はアメリカ科学アカデミー紀要に発表された (Mori et al.PNAS,2019) .
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作成したPLA2G6ノックアウトショウジョウバエが神経変性およびα-シヌクレイン凝集モデルとなり,脳脂質構成を改変することによりα-シヌクレイン凝集阻止および神経変性を予防できることを見出した.当初の計画からも概ね順調に進展していると考え,この成果を論文とプレスリリースという形で発表することができている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果をもとに,次にヒトサンプルでも同様のリン脂質変化が起こっているかを確認する.そのためには,①患者由来iPS細胞の脂質解析を行う.②患者由来赤血球脂質解析を予定している.動物種によって,脳リン脂質の構成の違いがあることが推測されることから,ヒトにおけるリン脂質変化を特発性パーキンソン病とPLA2G6変異患者の生体サンプルを使用し上記の脂質解析を行い,また脂質改変が期待できる分子の同定を行う予定である.また,リン脂質代謝に関わる他の遺伝子がパーキンソン病の発症リスクになる可能性があり,パーキンソン病患者での変異同定を行うことを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通りに研究が遂行でき,成果を論文と国際学会で発表することができた.次年度にヒト生体サンプルでの脂質解析を予定しており本研究の延長として行うことを計画している.
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