これまでに申請者はECEL1/DINEの損傷特異的コンディショナルノックアウトマウス(cKO)を作出し、遺伝子発現解析を行ってきた。損傷舌下神経核をサンプルとしてRNA-seqを実施したところ、wild-typeマウスとcKOマウス間で一部の遺伝子に違いが認められたものの、以下の課題があった。各ジェノタイプ、タイムポイントでN数が1ずつと少なく、偽陽性の可能性を否定できない(課題1)。組織丸ごとをサンプルとするbulk RNA-seqであるため、遺伝子欠損の影響が薄まっている(課題2)。本年度はwild-typeマウスのみを対象としてN数を増やしたbulk RNA-seq、シングルセルRNA-seqを実施した。コントロールの舌下神経核、神経損傷後7日目の舌下神経核をサンプル(N=3ずつ)としてRNA-seqを行ったところ、1000を超える有意な発現変動が検出された。また、先進ゲノム支援により、遺伝子レベルだけでなく、アイソフォームレベルでも情報解析を進めることができ、損傷に起因する発現変動を多数同定した。結果の一部はqPCR等で妥当性を確認した。同じく7日目でシングルセルRNA-seqを行った。サンプルは凍結組織より回収した細胞核であった。10x Genomicsのシステムで細胞ごとの遺伝子発現を網羅的に評価し、特徴量を計算した。コントロールと損傷側で結果を比較したところ、ミクログリアクラスター、末梢由来の免疫細胞クラスターで特に差が際立っていた。これらのクラスターについては、さらにサブクラスター解析を行い、新規の細胞集団を見出している。単なるバッチエフェクトの可能性を排除するため、組織切片や3次元イメージングによって組織学的に検証し、生物学的に意味のある現象であることを確認できている。
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