研究課題/領域番号 |
18K15381
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
榊原 泰史 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 研究技術員 (20734099)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 神経変性 / タウ病理 / 青斑核 / ノルアドレナリン |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエを用いた研究において、ウォルフラム症候群の原因遺伝子であるWFS1がタウの神経毒性に対し保護的作用を有する可能性が示唆されたことから、本研究ではWFS1が、アルツハイマー病における神経変性の進行に影響する新たな病態修飾因子である可能性を考え、その発現レベルがタウ病理の進行、および神経変性に影響することを検証する。 今年度は、前年度に導入したWfs1欠損マウスとヒトタウノックインマウスを交配し、ヒトタウを発現している状態でWfs1の発現レベルが低下しているマウス系統(Wfs1欠損ヒトタウノックインマウス)を作製した。既に繁殖用コロニーを樹立し、実験に使用する個体を生産している。 また、青斑核においてヒトタウを高発現し、タウ病理を創出するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを実際にマウス(C57BL/6J系統)の青斑核に投与し、ヒトタウの発現を確認した。投与6か月後に、青斑核でのリン酸化タウ(AT8エピトープ)が亢進し、皮質や海馬など投射領域におけるノルアドレナリン神経終末の脱落を認めた。この結果から、AAVベクターを用いたヒトタウ発現システムを確立できたと判断し、次年度ではWfs1欠損ヒトタウノックインマウスの青斑核にベクターを投与し、Wfs1欠損によるタウ病理の進行度について検討する。 加えて、加齢に伴い青斑核や嗅内野などの脳領域で内在性のタウ病理が出現するかどうかについて、12か月齢の野生型マウスとWfs1欠損マウスの脳組織を用いて検討したが、Wfs1欠損マウスでリン酸化タウ(AT8エピトープ)の亢進は検出されなかった。そのため、さらに加齢飼育を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、下記の通り、研究目的達成のため検討を行っている。 1.Wfs1欠損ヒトタウノックインマウスへのAAVベクター投与 前年度に導入したWfs1欠損マウス、ヒトタウノックインマウスを交配し、Wfs1欠損ヒトタウノックインマウスの系統を作製した。現在、繁殖用コロニーを樹立し、AAVベクターの投与実験に使用するための個体を生産している。 2.AAVベクターを用いた青斑核でのタウ病理の創出 青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞特異的にヒトタウを高発現するAAVベクターをC57BL/6Jマウスに投与し、投与6か月後で青斑核におけるリン酸化タウ(AT8エピトープ)の亢進、投射領域におけるノルアドレナリン神経終末の減少を確認している。同時に、対照となるmCherryタンパク質を発現するAAVベクターの投与も行い、ノルアドレナリン作動性神経細胞特異的なmCherryの発現を確認している。この時、ノルアドレナリン神経終末は減少せず、正常なままであることも併せて確認している。以上の結果から、ヒトタウ発現システムが確立されたと判断し、現在、Wfs1欠損ヒトタウノックインマウスへの投与を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、Wfs1欠損ヒトタウノックインマウスの青斑核へのヒトタウ発現AAVベクターの投与を進め、青斑核、あるいは嗅内野や海馬におけるタウ病理の程度、神経細胞脱落について検討を行う。 加えて、加齢飼育を継続中である野生型マウスとWfs1欠損マウスの脳組織において、内在性タウのリン酸化の亢進が生じているか、など内在性のタウ病理へ及ぼすWfs1の影響について引き続き検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は国内学会(日本神経科学大会)の他、国際学会(6th Congress of AsCNP)にも参加、発表を行ったため、消耗品や旅費等の配分を修正したこと、また実験を担当いただく研究補助員の方の人件費配分を修正したことから、残額が発生した。残額分については、次年度にAAVベクターの脳内投与に使用する消耗品(シリンジ、注射針)、あるいは組織学実験に用いる試薬類の購入に充当する予定である。
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